なでしこジャパンワールドカップ優勝にちなんで2011/07/18 11:27

なでしこジャパンのワールドカップ優勝が東日本大震災の後遺症にしずむ日本に久々ぶりの元気づけられるニュースをもたらしたことは万人の一致するところだろう。

もう10年以上前から「どうも最近の日本は女のほうが元気がある/覇気があある」という状態を感じてきたが、今回の優勝は改めてそれも確認させてくれた。

もうひとつここで確認しておくべきは「多様性」とか「他流試合」の重要性だ。なでしこジャパンはキャプテンの澤穂希をはじめのメンバーの過半が海外チームに過去所属していた経験があったり、現に所属していたりする。つまりメンバーのほとんどが日本を脱出し、積極的に海外に身を置いて戦った経験者だということだ。

女子ワールドカップの場合はさほどではないが、男子のワールドカップ・サッカーを見ていると、強豪と言われる国の選手は様々な肌の色をしていることがわかる。

今後日本が鎖国を決め込まず、世界のトップを狙い続ける限り、世界中の優秀な人たちを集めてきたり、世界で活躍する経験をしてきた人たちを集めることが非常に重要だということこそが、なでしこジャパンの優勝から我々日本人が学ばねばならないことだ。

自動車の「プロ」と「アマ」の落差2011/07/24 23:17

Our product is good enough for our market”と「トヨタ問題」で書いたように、私は車台番号がNHW20で始まるいわゆる第二世代のトヨタプリウスオーナーだ。2003年9月の発売から3カ月ほど待って納車となったものをそのまま10万キロ乗っている。月千キロ強のペースなので、東京都民としては多めに乗っている方だろう。その間大きな故障と言えば10万キロのちょっと手前で左前輪からわずかにゴーッという音がし始めたので見てもらったらドライブシャフトとベアリングの交換と相成ったくらいだ(なにしろ左側は嫁さんが良くこするからなぁ)。
買った当初、カタログ燃費と実燃費の極端な差にびっくりしたり、それまで乗っていた自動車に比べて交差点での発進や加速時のモタモタが気になったり、路面に起伏があると車体がフラフラすることが気になったりということがあった。

実燃費の方は都内で運転して12~15km/l、高速でメチャに飛ばさなければ20km/l(いずれもレギュラーガソリンで)という状態なので、正直言って大いに助かっている。以前いろいろな自動車評論家がフォルクスワーゲンのゴルフのことをあまりほめるので試乗に行ったら、セールスマン氏が「燃費はプリウスには負けます」と正直に言っていたのでゴルフの燃費 > プリウスというのは、よほど特殊な条件下でない限り存在しないと考えておいた方が良い。おまけにゴルフはハイオク仕様だ。そのセールスマン氏にも「レギュラーは入れないでください」とクギを刺された。燃費が同じでもレギュラー仕様とハイオク仕様では経済性は10%程度の差がでる。プリウスオーナーになる意義の第一はこの抜群の燃費の良さだろう。

先ほどのフォルクスワーゲンのセールスマン氏はそのあたりのことを「燃費ではプリウスに負けますが運転感覚を買ってください」と表現していた。

フラフラのほうは、まだボディー剛性強化パーツがあちこちから発売される以前に相談したボディーの専門家国政久郎さんに「ミシュランタイヤにしてみてください」と言われてその通りにしたら大幅に改善された。それまでは首都高のカーブのきついところに80km/h以上で突っ込むとハンドルを細かく数回切らないと曲がりきらなかったのが、一発で決まるようになった。「タイヤ一つでこんなに違うんだ」ということを認識させられた。最近はボディーや足まわり強化パーツがあれこれ発売されているので、それをつければ更に良くなるだろう(まだ試していないが、自動車評論家の国沢光宏はショックアブゾーバーの交換を推薦している)。

交差点での発進や加速時のモタモタ感は別に周囲に迷惑になるほどのレベルではないので「パワー不足なんだ」と慣れてしまえばそれまでのことだ。

さて、ゴルフはステーションワゴンになっているヴァリアントVariantを主として試乗した。ゴルフそのものも乗ってみたが、荷物を積むスペースがプリウスに比べ圧倒的に少ないので関心がわかなかった。試乗が終わってディーラーからアレコレ資料をもらって家に帰るためにプリウスに乗った瞬間「あれっ広い」と感じた。家に帰ってから両方のカタログを見比べたらそうでしょう、こんな感じなのだ:

 

プリウス

(第2世代)

プリウス
(第3世代)

ゴルフ

ヴァリアント

車室幅

1440mm

1470mm

1330mm

車室長

1890mm

1905mm

1840mm

前部座席座面~天井

950mm

930mm

940mm

後部座席座面~天井

900mm

905mm

950mm


第二世代のプリウスのほうがゴルフよりつまっているのは「背の高い人が乗ると頭がつかえる」と言われるプリウス後部座席から天井までの高さだけなのだ(”Our product is good enough for
the market”で指摘したように、第三世代のプリウスの前席座面から天井までの高さは寸詰まりでゴルフに劣る)。

タイヤをミシュランに履き替えることで乗り心地の問題をひとまず片付けてしまった私に取っては、燃費といい、この車室の居住性といい、「プリウスの方がゴルフに優っている」という感じなのだ。交差点競争や高速道路でブッ飛ばす場合はたしかにゴルフに負けるだろうが、だいたいお膝元のドイツの高速道路だって今や110km/hとか130km/hの速度制限がかかっている区間がほとんどの状況なのだ。130km/hや140km/hならプリウスだってゴルフ程サッサと加速はしないが安定してだせるスピードだ。要するにプリウスはちょっとアンダーパワーの車だと思って運転していればよいだけのことだ。

何でそんなゴルフのことを自動車評論家諸氏は激賞するのだろう?

徳大寺有恒の著書「ぼくの日本自動車史」を読んでいて思い当たることがあった。そこで彼はメカとしては優れた日産ローレルではなく、「軟派な」トヨタのマークIIを買った顛末について書いている。面白いのでこの部分(同書p 239~240)を引用してみよう。

 で、僕はというと、実はマークII を買ってしまったのだ。真っ赤な1900ハードトップ、オートマチッ
   クである。これまた懺悔、懺悔、また懺悔である。(中略)

と言って両者の内装の差についアレコレ書いた後

 いってみればローレルは硬派、マークII は軟派だったのだが、僕はそのマークIIの軟派ぶりに、
 コロリと騙されてしまったのだ。(中略)
 二十数年前の徳大寺有恒は、ごくごく普通の大衆だったのだ。

更にp 242では「マークII に目がくらんだぼくは自分が恥ずかしい」という題名の一節を立ててマークIIについてこんなことを書いている

 ところが、こいつがなかなか壊れない。会社がつぶれるまでの丸二年間、乗っていたのだが、
 その間、全くのノントラブルだった。(中略)

 当時、ぼくの乗っていたローバー2000P6は、マークII に比べたら死ぬほど良かった。4気筒なの 
 でそう静かじゃないが、インテリアは総革張りで気持ちがいいし、とにかく乗り心地が抜群にい
 い 。(中略)

しかし、P6はおそらくマークII に比べると何かの拍子でエンジンがかからなくなったり、日本の夏の間はヒーヒー暑がってオーバーヒートしたりベーパーロックしたり、つまりメカに弱い一般のユーザーにしてみれば手に負えない信頼性に劣る商品だったはずだ。だからだろう

 こんなにすばらしいローバーだったが、女房はけっして運転しようとはしなかった

そうだ。徳大寺さん、その「ごくごく普通の大衆」のニーズを満たすことこそがクルマづくりの出発点なんじゃないでしょうか?だから「目がくらんだ」ことを恥じるのではなく、そのニーズに共感してマークII を買った当時のご自分の感覚の確かさはほめてやるべきじゃないかと思います。

たしかにクルマづくりは「ごくごく普通の大衆」のニーズばっかり見ていてはダメだと思いますし、そのちょっと先を行く車を提案するのが自動車メーカーの使命だとおもいますし、そのために自動車メーカーはあれこれ試行錯誤をする必要があるし(最近ヒットを狙うあまりそれを余りやらないのが私には不満ですが)、そしてその大衆のニーズの部分とメカの部分のちょうど良いバランスが得られた稀有な車こそが名車なんだと思いますが…

断言する。いわゆるプロが、メカやデキに目を奪われて何を言おうとゴルフは私にとっては名車ではない。我がプリウスは名車ではないかもしれないが、間違いなく自動車の歴史の1ページを画す車だし、足回りさえいじってやれば限りなく名車の域に入りうる車だと思う。

どうも自動車評論家諸氏の多くは山間の曲がりくねった坂道を「攻める」ことを基準にしてクルマのできを見る傾向があるような気がしてならない。ユーザー目線からいうと燃費(それもレギュラーガソリンで)とか、車室の居住性とか、こわれないことの方を優先することを認識してほしいものだ。山間の曲がりくねった坂道ではスピードを落とせばよい。トヨタはそのような面を見据えて車を開発しているからよく売れているのではないだろうか?

というようなことを、昨年トヨタ問題がアメリカで起こる以前に、よくトヨタ車批判を行う自動車評論家の両角岳彦のメーリングリストに投稿したら、先生どうもカチンときたらしい。「トヨタ車が売れているのは悪貨が良貨を駆逐しているからだ」とのコメントを次のメーリングリストで発表した。私は両角岳彦が技術について書いていることの多くは高く評価している。国産車のほとんどが採用しているCVTに対する彼の批判はいちいちごもっともだし、トヨタ問題が起きたとき、第三世代プリウスのブレーキシステムの分析に基づくトラブルの説明などは彼の真骨頂だと思う。しかしトヨタ車が売れているのは悪貨が良貨を駆逐しているという認識はいただけない。

私は長年モノを売る商売をしていて、消費者は比較の機会さえ与えられれば基本的には良いものと悪いものを見分ける力を持っていると確信している。そんな私の目からすればトヨタ車が売れているのはトヨタが消費者のニーズにあった車を作って売っているからで、そのことを悪貨が良貨を駆逐しているからだという発言は消費者をバカにした思い上がりに聞こえる。

ゴルフを激賞する自動車評論家と、売れる車の間の落差はこのあたりから出ているのではなかろうか?

日経ビジネスオンラインに「フェルディナント・ヤマグチのはしりながら考える」というページビューで1、2を争う人気連載コラムがある。ヤマグチがほぼ無批判に日産GT-Rに感動したり、CVTに関する批判がまったくない部分はまさに徳大寺の表現を借りれば「軟派」なのだが、そのセミプロのコラムが人気連載となる理由を自動車評論家諸氏は少し考えてみる必要があるのではなかろうか。

水のなるほどクイズ2010