2014年ノーベル物理学賞受賞報道を読む2014/10/08 14:58

日経と言うのは面白いメディアだ。

日本経済新聞はまさに政府と財界の御用新聞。例えばこのブログで取り上げたオリンパス粉飾事件で日経新聞の女性記者がオリンパスを追放されたMichael Woodfordマイケル・ウッドフォードに記者会見の席上で「菊川のお気に入り」と言われた例などはその一端を示しているだろう。安倍政権についてもほぼ無批判というか翼賛的な報道を、産経や読売よりやや良識あるめいた言葉で行う。

ところが子会社の日経BPになると日経グループの良心がうずくのだろうか、日経新聞に比べればきちんと安倍政権の経済政策を批判する論説が掲載される(無論賛成の論説も掲載される)。オリンパス粉飾事件でも日本の大手メディアとしては一番最初にウッドフォードをロンドンまで追いかけて、彼の生の言葉を報道したのは日経ビジネスオンラインだ。

さて今朝の日本のメディアのトップを飾った本年度ノーベル物理学賞受賞者。10月8日付日経新聞朝刊の一面トップの見出しは「ノーベル物理学賞 赤崎・天野・中村氏  日本の3人、青色LEDを発明 照明など広く応用」だ。日経の論調は「息の長い研究と同時に愚直なものづくりに徹し、3氏は輝かしい業績をあげた。それが授賞対象になったことは、ノーベル賞の選考委員会がものづくりに対する日本の姿勢を高く評価したことといえるだろう。」という永田好生編集委員の「日本の姿勢」翼賛調の解説が物語っている。 

面白いのは日経ビジネスオンラインが10月7日付で「2014年のノーベル物理学賞が、米カリフォルニア大学の中村修二教授ら日本人3に贈られることになった。一報を聞いて記者の脳裏に浮かんだのは、激烈な口調で不満をぶちまける、怒りに満ちた中村氏の表情だった。」との前振りで始まる「ノーベル賞学者は10年前、『敗軍の将』として何を語っていたか」と題する記事で、ここで日経ビジネス2005年1月24日号の「敗軍の将、兵を語る」シリーズでの中村修二教授インタービューを再録していることだ。ちなみに中村教授は日本のメディアでは「日本人」として報道されているが、現在はアメリカ国籍なので正確には日系アメリカ人だ。ノーベル賞委員会の発表でもAmerican Citizenと明記されている。

といっても日経BPの「良心」にも限界があるようだ。「ノーベル賞学者は10年前、『敗軍の将』として何を語っていたか」は今朝の日経ビジネスオンラインではトップ扱いで掲載されていたが、午後になるとどういうわけかこれが消え、前日の記事を検索しないと出てこなくなった。表向きの言い分は「ノーベル物理学賞の発表10月7日だった」とか「入稿が10月7日だった」といったものだろうが、そもそも発表が行われたスウェーデンと日本では時差が7時間あり、発表はおおむね昼頃おこなわれるので、日本時間では10月7日の夕刊には全く間に合わないタイミングだ。だから三氏のノーベル賞受賞の記事は10月8日の各紙の朝刊をかざったのだ。「当然日経ビジネスオンラインだって…」というところだが、あえて午前中のサイトのレイアウトを変えて昨日の方に記事を押しやったのは編集者に日経新聞の論理の方が貫徹された人物がいるためだとしか思えない。「これはインターネットのサイトだから、新しい記事が入稿すれば古い記事は適宜サイトから消える」というコメントに対しては「日経ビジネスオンラインはモデレーター(つまりは編集者)のいるサイトなので、記事がどうサイト上に出てくるかにはモデレーターの意思が働いている」と回答しておく。

日本のメディアからまた一つ良心の灯火が消えたのかもしれない。


水のなるほどクイズ2010