量的金融緩和論の終り(その2)2016/12/30 14:43


そこで「もっとも私はこのブログで浜田のことを狸爺扱いにしているくらいなので、浜田の文章を読むため文春を買おうとまでは思っていない」と書いたのだが、知人に「いくら爺さんが嫌いでもそれはないだろう」といわれ、近所の図書館で浜田の寄稿文「「『アベノミクス』私は考え直した」が掲載されている文春の2017新春特別号を読んでみた。単純に言って記事の内容は「金融政策が効かないので今度は財政政策だ」ということが平易な言葉で書かれているだけで、「そんなことを言われるためだったら、やはり立ち読みか図書館だな」と言うのが読後感だ。

ここでは浜田が転向するきっかけとなったプリンストン大学経済学科教授のChristopher A.
Sims クリストファー・シムズ が今年の8月25~27日に開催されたJackson Hole Economic
Policy Symposiumに提出したペーパーFiscal Policy, Monetary Policy and Central Bank
Independence「財政政策、金融政策及び中央銀行の独立性」
の解説をすることで、なんで浜田が転向することになったのかを考えてみたい。

尚、このJackson Hole Economic Policy Symposium ジャクソンホール経済政策シンポジウムは毎夏この時期にアメリカのFederal Reserve Bank of Kansas Cityカンサス市連銀が主催する世界中の金融政策関係者が集まる権威のあるシンポジウムで、日本からは今年黒田東彦日銀総裁とその部下である坂本哲也米州統括役が出席している。

シムズ論文は以下4点の問題意識に対する解答を出そうというものだ:

1.  現在の経済環境における中央銀行の独立性の意味と独立性の維持の方法
2.  中央銀行が規模の大きな貸借対照表B/Sを維持することの問題の有無
3.  米、欧、日において金融政策がインフレを目標値まで持ち上げられなかった理由
4.  このような環境下での赤字財政が金融政策の無力に対する効果を持ちうるのか

設問1に対しては、金融政策と財政政策は相互に関係するものなので独立性の維持のためには政策当局者にその事実の認識が必要だ、とのごくアタリマエのことが書いてある。

設問2に対しては、アッサリThey are not 「問題がある」と書いている。B/Sの拡大は中央銀行保有の有利子の金融資産の増加をもたらし、それが資産と負債それぞれのリスクのミスマッチを産むからだと言うのがその理由だ。これまたアタリマエのことだと思うのだが、もしこんなことで浜田がビックリしていたとすると、ずいぶんとぼけた爺さんだという気になる。むしろ、この部分については就任以来QQE(量的質的金融緩和)とかいってB/Sを積極的に拡大してきた黒田東彦がどんな顔をしてきいていたのか、或いはムキになって「そんなことはない、我が日銀では…」と食いついたのか知りたいところだ。

設問3に対しては、金利が"0"近辺にあるので通常の金融政策が効かないのは当たり前だと書いている。この部分は浜田にとってよほどショックだったのだろう。浜田は日経新聞のインタービューで「金利がゼロに近くては量的緩和は効かなくなるし、マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを損ねる」といっている。金利を下げても、企業は投資ではなく借金返済に回してしまうので、金融機関のB/Sには貸せないお金が貯まるばかりだとリチャード・クーが10年近く前から指摘してきたことに今頃気がついているわけだ。

設問4に対して、シムズは財政政策はインフレが起きるようなものでなければならない、言い換えれば将来のインフレを利用して返済できる範囲のものでなければならない、と書いており、浜田も「そうだそうだ」という立場だが、「シムズさん(浜田さん)、そんなにうまく行きませんよ」というのが率直な私の印象だ。山梨県の山奥の寒村に大掛かりなトンネルを掘ることの経済効果などほとんど見込まれないのは自明だが、経済効果を産むか産まないかはやってみなければわからない財政支出も多々ある。「ただ歳出を増やすのではなく何に使うかは考えないといけない」というこれまたアタリマエな内容のことしか言えないのなら、「浜田先生そろそろ内閣官房参与なんていって日本政府のお金をもらうのはやめにしましょうよ」というのが率直な気持ちだ。

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