グラン・トリノ2009/04/29 00:39

白人がほとんど住まなくなった街に住むフォードを引退した自動車組立工。頑固で、白人至上主義で、チャラチャラした最近のアメリカ文化に棹差すような彼は、二人の息子や嫁たちや四人の孫たちからは煙ったがられる存在だ。その彼の心には朝鮮戦争で敵兵を殺傷した際の記憶が深い傷として重くのしかかっている。飼い犬のレトリーバーしか友がいない彼が、徐々に今は亡き彼の妻が信仰していた地元のカトリック教会の神父と、隣に住む東南アジアの少数民族モン族の青年と信頼関係を築いてゆく中でストーリーは展開する。

さびれた田舎町にもさまざまな民族が暮らすアメリカの姿を描く中から、勧善懲悪で終わることは予想できるにせよ、予期せぬ幕引きまでを間延びせずきっちり描くクリント・イーストウッドの監督としてのテクニック、そして主役として頑固な老自動車組立工を演ずる彼の演技が冴えわたる。

映画を見終わってから、硫黄島シリーズといいクリント・イーストウッドってひょっとして東洋人がすきなんじゃないか?あのように英語もできない人たちを治安の悪化を承知で飲み込んで行くアメリカってやはりすごい!ベトナム戦争でアメリカ側について戦ったモン族を一部であるにせよ戦後引き取ったアメリカは立派だ(日本は第二次世界大戦後そういう人たちをほったらかしにしてきた)、ああいう正義感と行動力を持った一徹な老人になりたい、それにしてもアメリカ語ってなんて東洋人の蔑称が豊富なんだろう(それらにそれなりの訳語をみつくろった字幕の戸田奈津子さんは偉い!)、など等いろいろ考えさせられた必見の映画だと思う。

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_ soramove - 2009/05/17 10:26

「グラン・トリノ」★★★★☆
クリント・イーストウッド 出演
クリント・イーストウッド 監督、2008年、117分、アメリカ




「思ったままを口にし、
周囲の人たちを傷つけてしまい、
最愛の妻を亡くして、
息子達からも疎まれる老人を
クリント・イーストウッドが演じている」


隣に越してきたベトナム系の家族を
「米食い虫」と呼び
「クロ」だとか「イエロー」だとか、
差別用語のオンパレード、
でも見ていると分かってくる
彼にはその言葉にそれ以外の含みは無いことだ。

「そういうことは言ってはいけない」と
思っていても口には出さず
人種差別なんて考えられないと
表面上でにこやかに笑う気持ち悪い
博愛主義者もどきが見たら
顔がこわばってしまうだろうな。

もちろん面と向かって言われたほうは
気分悪いにきまってるけれど。

それでもそんな風に生きていては
他者とうまく関われるハズも無く、
奥さんが生きていた頃は彼女が
間に入ってうまくやってくれていただろうに、
その大切な役目をしてくれる人を亡くして
主人公の毎日は淋しいものとなってしまった。

夕暮れ、玄関ポーチでビールを飲みながら
ピカピカに磨き上げた
自慢の車グラン・トリノを見る、
穏やかな時間、
車の組立工として30年以上働いたご褒美だ。

彼の今の暮らしを「淋しい」ものだとしたら、
何のために毎日毎日車を組み立て、
やっと手に入れた家で、
ひとり孤独に過ごす「老後」は
一体何を意味することになるのだろう。

ベトナム系の少年との交流、
そしてどうしようもなく存在する「邪悪」に
立ち向かう主人公。

ラストはかつてダーティファイターで
銃を撃ちまくったイーストウッドの
ひとつの答えなのかもしれない。
ただラストにはどこか明るいものを期待したいから、
別のラストを用意して欲しかった。

イーストウッドの雄姿に心が熱くなる、
こんなふうに新しい作品を生み出す情熱に
胸が熱くなる。


★100点満点で100点★


soramove
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もうこれが最後かと思わせるイーストウッドの姿、
でもこうして新作を作り続ける情...

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