G20ロンドンサミット閉幕2009/04/04 00:15

G20サミット閉幕

ロンドンで開かれていたG20サミットが4/2に共同宣言を出して閉幕した。一部の映像報道を見ていると(私はプロのウォッチャーではないのですべてのテレビを見ているわけではない)、アメリカのオバマ大統領とサミット開催国のブラウン首相が満面の笑みを浮かべて集合写真などに写っていたことが印象的だ。

 

それはそうだろう。今回の金融危機の直接の引き金を引いたのは世界の金融の中心を標榜していたアメリカ、イギリスの両国である。投機資金を世界中に流通させたアメリカとイギリスの金融をどう規制するのか、価格が定まらないために金融機関の資産価値に不安をもたらすもろもろの金融商品をどうするのか、と言った点で両国が批判の矢面に立ち、アレコレ厳しい対策を迫られて当然だったのに、ニューヨーク・タイムズの言葉を借りれば

 

On the critical question of how to grapple with trillions of dollars in “toxic assets” clotting the financial system in Europe and the United States, there was a declaration of goals but few specific actions.

欧米金融システムの流れをつまらせている数兆ドルに及ぶ不良債権にどう対処するのか、という重要な問題については、行動目標についての宣言はあったが見るべき具体的な対案はほとんどなかった

 

と言う状態だったのだから。金融規制に重きを置くべきだといきまいていたドイツ、フランスも結局はもっともらしいサミット宣言で面子を立ててもらって矛を収めた。

 

面白かったのはサミット後の記者会見でオバマ大統領が英国のBBC放送の記者の

 

Mr President, what were you unable to get at this summit?

大統領閣下、今回のサミットで貴下が成し遂げられなかったものは何ですか?

 

と言う想定外の?質問に対して珍しく言葉を詰まらせたところだろう。それくらい今回のサミットは米英ペースでまとまったとみてよい。

 

余談だが、こういうことをみているといつもながらの英米の交渉力の高さに感心させられる。ビジネスマンとしてあちこちの国の相手先と交渉してきたが、正直言って英米企業相手の交渉が一番シンドイ。中国やロシアの企業相手の交渉は「どれだけまけられるのか?」に収斂してゆくので単純だ。英米企業相手の交渉では値段自体は大して厳しくないかもしれないが、値段以外のさまざまな要素をコト細かに決め、その総合的なコストの中で判断しなければならないので本当にシンドイ。日本の企業はいざとなると「エイヤーで決める」伝統があって、そこまで自分の考え方がコト細かにまとまっていないのでなおさらだ。

 

今回のサミットで実際決まったことの中で一番実際の数字を伴ったものがIMFに対する出資である。日本は今回のサミットでIMFに対してアメリカとEUと同額の1,000億ドル(約10兆円)を大判振る舞いすることをコミットした。アメリカの1,000億ドルには議会の承認が必要なので、割引いてみる必要がある。1,000億ドルの意味をちょっと考えてほしいので以下の表を作ってみた。参考までに発展途上国中では多めの400億ドル(4兆円)の拠出を決めた中国も加えてみた。

 

 

一人当り

GNP

一人当り拠出額

拠出比率

日本

$35,309

$787

2.2%

アメリカ

$46,645

$326

0.7%

EU

$38,415

$200

0.5%

中国

$3,154

$30

0.9%

 

為替が激しく変動している今、アメリカにしてもEUにしても一人当たりのGNPは日本よりちょっと多いくらいとみてよいが、人口は数倍だ。そのため同じ1,000億ドルでも日本のほうが一人当たりでははるかに負担率が高いことがわかっていただけると思う。今回の拠出コミットは「火事場に大きな見舞袋を届けて大旦那ぶりをみせた」というところだろうが、他面国内政局の混乱やら内向きにしか目の向かない政治家のせいで国際舞台ではpunching below its weight(実力以下でしか活動していない)と揶揄される日本が批判をかわすため「せめて火事場の見舞金を弾もう」となけなしの金をはたいたとの見方もできる。とすればそのような政治家を選んだ国民は、そのことで随分高いお金を払わされていることになる。

 

日本国民はサミット後の集合写真で、大旦那なのに後列に立たされた麻生首相が満面の笑みでいられたのは何故だったのか考えるべきだと思う。

 

ちなみにこの集合写真では400億ドルの拠出を決めた中国の胡錦濤国家主席がいまいちパッとしない顔をしていた(この人、元々半分笑ったような状態で表情が固定しているが)。日本よりは相対的に少なくてもEUやアメリカに比べたら多めの負担をしたことやタックスヘイブンのことで言質をとられたことに対する反応だろうか?ちなみに中国は香港とマカオと言うタックスヘイブンを抱え、中国企業はカリブ海のタックスヘイブン国の提供する節税サービスの上得意先だ。

 

G20についてもう一つ興味深い点をあげると、日本の報道機関が概ね「G20財政出動500兆円 首脳宣言採択」(朝日新聞)の線、つまり5兆ドルを強調しているのに、私が見たアメリカやイギリスの報道ではIMFにコミットされた1兆ドルが強調されていることだ。日本の報道機関は宣言に表れた数字を額面どおり報道したが、アメリカやイギリスの報道のほうは「出す」と決まった部分を中心に報道していると言うわけだ。5兆ドルは本当に支出されるかわからないお金だとの認識はしておくべきだろう。

 

ちなみに1兆ドルにしても「真水」の部分がどれくらいかについては、今現在ハッキリした報道がない。

 

私は1兆ドルであろうが5兆ドルであろうがまだ足りないのではないかと思っている。これは日本一国の消費を本当に浮上させるには社会保険費が毎年100兆円(1兆ドル)くらい必要であるという認識とのバランスで書いていることだ。日本の2009年度政府予算案の歳出は51.7兆円、その中の「社会保障関係費」はその約半分の24.8兆円だ。100兆円というのが以下に莫大な金額なのかお分かりいただけると思う。世界の景気を復活させるのはそれくらい大変なことなのだ。

 

いずれにしてもG20が玉虫色の合意のつぎはぎであっても、喧嘩別れではなく合意に達したことは世界にとっては前向きの第一歩だったと率直に評価しよう。1933年に開催されたロンドンサミットは決裂して世界は第二次世界大戦に向かって行ったのだから。


水のなるほどクイズ2010