シニアコミュニケーション2010/07/06 22:00

株式会社シニアコミュニケーションは2005年にマザースに上場したれっきとした上場企業で、「日本で初めてのシニアマーケットに特化したコンサルティング会社」だ(同社ウェブサイトによる)。要はシニア層向けに商品やサービスを販売したい企業に対して、シニア層に関するマーケティング情報を提供することを目的として設立された会社ということになる。そのようなニーズがあることはまったくその通りだ。趣旨に賛同して東京電力と三井物産と博報堂が同社に出資し、東京電力と三井物産は一時は取締役まで派遣していた。

シニア層向けの旅行や物品の企画販売をしていた経験のある知人がシニアコミュニケーションに在籍していた(知人は既にシニアコミュニケーションを退職)。その知人によれば企業目的はさておき、シニアコミュニケーションはそもそもシニア層のニーズが何であるかを本質的に理解していない人たちが経営していたので「適切な情報提供どころか…」という状態であった由だ。

シニアコミュニケーションはクライエント用にシニア層のニーズに関する情報を収集したり、クライエントから請け負ったモノやサービスを販売する目的で、シニアコム http://www.seniorcom.jp/ という会員制のウェブサイトを維持している。しかし、そもそもシニアコムの各コーナーを仕切る専任コーディネーターをおいていなかったので、シニアコムは2チャンネルのように会員が無秩序に書き込むだけで終わっている状況のようだ。

「こんなことでは的確な情報集めも、シニアのニーズにあった物販もできるわけがない」というのが知人の見立てだった。50人くらいしか人がいない小さな会社のことゆえ、知人は「シニアのことなど何もわかっていないままではダメだ」と社長に直訴しようと考えたが、そもそもその社長を始めとする経営トップがいつも外出していてまともに会話は出来なかったらしい。「経営陣はいつ自分の会社の行く末をじっくり考えているのだろう?」というのが在職中の知人の疑問だった。

そのシニアコミュニケーションが4月13日付で「調査委員会の設置に関するお知らせ」という適時開示を行い、その約2ヶ月後の6月4日付で「外部調査委員会による調査報告書」を発表した。調査報告書をダウンロードして読んでみると、粉飾決算の手口オンパレードだ。資金ショートしそうな自分の会社に、粉飾で捻出した資金を振り込む(いわゆるタコアシですね)。そうやって入ってきたお金が外部からの送金であるように見せかけるため、送金元がばれないようキャッシュディスペンサーから現金で送金した、とかいった細かい芸までやっている。粉飾の基礎を勉強したかったらこの報告書を読んだら良い(これだけやった会社だとシニアコミュニケーションが事業を継続できるか怪しいので、会社のウェブサイトがなくなったらEDINETで報告を見つけてください。
EDINETコードはE05526だ)。

「いつも経営陣が会社にいなかったのは、きっと粉飾の実務作業で飛び回って忙しかったのだろう」というのが知人の結論だ。

「シニアコミュニケーションは『シニアマーケット』に対する期待や掛け声が高まる中、その掛け声に便乗して一儲けしようとした同社の旧経営陣による粉飾の道具だった」ということになるが、このような例が発生したことでシニアマーケットを理解する努力が止まってしまっては残念だ。このマーケットを正確に理解する必要はあるのだから。

そもそもシニアマーケットを理解するにはそのニーズを知るシニア層の活用が必要だ。しかしシニアコミュニケーションに勤める人の大部分は30歳台だったようだ(最新の第9期有価証券報告書によれば同社の平均年齢は34.9歳)。

ただ、これは別にシニアコミュニケーションだけのことではない。シニア層向けの商品やサービスを企画している他の会社でもどうもそんな状況ではないだろうかと思われる。シニア層向けの旅行を企画開発している上場企業のニッコウトラベルの有価証券報告書を見ると平均年齢31.49歳だし(同社の第33期有価証券報告書)、同じような年齢層の顧客を狙っているやはり上場企業のユーラシア旅行社が32.4歳(同社の第23期有価証券報告書)だ。ちなみに大手の近畿日本ツーリストは39.31歳(同社の第71期有価証券報告書)、日本旅行は39.25歳(同社の60期有価証券報告書)で、皮肉にもこちらのほうが年齢層が上だ。

ウーン。

若い人たちに、定型的なマーケティングの調査や商品の企画を任せることはできるだろう。或いは大学やビジネススクール仕込みの最新のマーケティング調査をやらせることはできるだろう。しかし、果たしてこれで本当に売れる商品やサービスを供給するのに必要な「市場に対する共感」を持った調査や企画を期待することができるのだろうか?早い話が、ウェブサイトのデザイン一つにしたところで、フォントのサイズから、極力デザインを変更せずにウェブサイトを更新して行くテクニックに至るまで、シニア層相手に独特の対応が必要だ。旅行にしたところで、毎日次の観光地に移動するようなスケジュールではダメだ。単にウェブデザインや企画に優れた若い人がいても「ハート」が伴わなければダメなのだ。

「日本はこれからシニア市場が成長市場だ」云々という声が今のところ掛け声倒れに終わっているのは存外こんな市場のニーズとワカッチャイナイ商品やサービスを提供する側とのミスマッチに原因があるのではなかろうか?

近畿日本ツーリストの子会社でシニア層向けの旅行商品を提供しているクラブツーリズムは、自社の旅行商品の客層の中から積極的にFFSという呼称で添乗員を起用しており、それなりの実績を上げているという。これはシニア市場向けの商品やサービスの販売とは別に、シニア層の活用も図ろうという、いわば一石二鳥の見識だと思う。ただFFSのサイト
http://www.club-t.com/ffs/index.htm
に条件面の記載がまったくないのにはちょっと首をひねった。人はパンのみにて生きるにあらず。年金生活でそれなりに生活が安定しているといっても、生きがいだけでは添乗員のようにシンドイ仕事はできません。

水のなるほどクイズ2010