フォルクスワーゲン(VW)問題について考える [追補] ― 2015/10/02 09:19
9月25日にVW問題についてエントリーをアップしたが、アップ後にこのブロ
グにこれまで2度登場している元トヨタのエンジニア氏とある会合で同席する
機会があり、氏の見解を求めた。氏は「要は意図的に(検査を)だますような
プログラムを仕込んだことが問題なのだ」と極めて簡明な説明をされた。
この説明を使うと「『お受験モード』は検査に合格しようとする意図はあっても、
検査をだまして良いテスト結果を得ようという意図がないからOK」ということ
にもなる。カンニングをするのは「☓」だが、傾向と対策を研究してパスする
のは「◯」ということだ。VW以外の自動車メーカーの立場は概ね「自分たちは
傾向と対策を研究してパスしたのだ」ということだろう。
ただ、排ガスのテストの場合、テスト問題と達成すべき成績は予め教えられて
いるわけで、自動車メーカーは事前にわかっているその課題をどのようにクリ
アするのかを競っているのだ。テストを受けている時だけ排ガスの中のNOx成
分が少なくなるようなプログラムを車載のマイコン(ECU, engine control unit
という)に仕込むのと、テストのパターンを想定してそのパターン内では車の
排気が合格圏に入るようECUをプログラムするのとで、質的にどのような違い
があるのだろう?
「ECUチューニング」で検索をかければECUを書き換えたり、換装したり、新
たな装置をECUにつないだりして車の性能を向上させる装置がいろいろ販売さ
れていることがわかる。英文版Wikipediaにはchip tuningという項目がある
くらいだ。素人相手でもそれだけの商品がでているということは、メーカーは
車の開発過程でECUに対してありとあらゆる操作を試しているはずだ。その「あ
りとあらゆる操作」のなかに「テストをだまそうという心があったのかどうか」
が問われているのが現在のVW問題だが、「だまそうと言う心」と「うまくテス
トをスリ抜けようとする心」との差は極めて微妙だ。
トヨタの豊田社長が役員会で「VWの苦境につけ込む火事場泥棒のようなことは
断じてやってはならない」と発言したといってヤンヤの喝采をするむきがある
が、モリゾーさんの発言は「自分たちだって決して100%クリーンなわけでは
ないのだから、あまり舞い上がると火の粉が自分に飛んで来るよ」という極め
てマトモな経営者としての危機感を社内に対して表明したと思っておいた
ほうが良い。
10月1日に日経ビジネスオンラインに「トヨタもVWの不正に抗議していた」
という一見トヨタをヨイショしているかのような題の記事が掲載された。とこ
ろがこの記事を読むと書いた大西孝弘記者に意外と骨があることがわかる。記
事には以下のような各社の実燃費とカタログ燃費の差がわかるグラフが示され
ていて(ベンツ、GM、トヨタの乖離が大きい)、「2014年のトヨタ自動車のかい
離率が伸びているのはハイブリッド車の販売が伸びたため」とのキャプション
がついていて、トヨタのハイブリッド車のカタログ燃費と実燃費の乖離を指摘
しているのだ。
グラフの出典は今回のVW問題の火元となった The International Council of
Clean Transportation (ICCT) なので、今度はカタログ燃費と実燃費の差が問
題化する可能性を記事が示唆しているとも読める。モリゾーさんがVWのつまづ
きに浮かれる社内の引き締めにかかるわけだ。この記事こそヤンヤの喝采ものだ。
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