チリ地震に思う2010/03/06 11:59

現地時間2月27日午前3時34分(日本時間2月28日午後4時34分)チリ中部にあるチリで二番目の都市Concepcionコンセプシオンをマグニチュード8.8の地震が襲った。ちなみに1995年の阪神・淡路大震災のマグニチュードは7.3、記憶に新しい今年の1月12日のハイチの首都Porte-au-
Princeポルト・オー・プランスを襲った地震のマグニチュードは7.0なので、いかに今回のチリで起きた地震の規模が大きなものであったかがわかる。

私は仕事で二回チリを訪問したことがある。一度はチリ北部をプラント建設に関する打ち合わせで訪問したが、その際現地のパートナーが耐震設計及び施工について非常に真剣にとらえていたことを記憶している。「耐震設計の義務はあるが、設計は設計として施工のほうは適当に」というのとはおよそ異なる対応だった。

サンフランシスコ湾を横断するBay Bridgeが崩落した1989年のアメリカのサンフランシスコ地震(マグニチュード6.9)の際、日本の専門家は「日本の建築は耐震強度を十分とっているのであのようなことにはならない」といっていたが、阪神・淡路大震災では耐震設計施工がなされていたはずの高速道路が倒壊したりして当の日本の耐震設計基準の見直しが必要ということになり、その後姉歯耐震設計強度偽装事件で建築確認制度にも問題があることが発覚してしまった。耐震設計については、そもそもちゃんとした基準が存在していることと、その基準がキチンと適用されていることが必要だ。日本の場合はその両方について黄信号がともったわけだ。

今回の地震での死者は現状で700名強。これは人口約1660万人のチリ全体での死者の総数だ。ちなみにコンセプシオン市およびその周辺の市の人口は約90万人だ。一方今回のコンセプシオン市より震度が低かった阪神・淡路大震災の死者は人口150万の神戸市だけで公式統計によれば4564名、全体では6434人。チリに対比すれば、たとえ死者700名強のすべてがコンセプシオン市域で発生したと仮定しても神戸のほうが人口に対する死亡者の割合が高い。

地震国日本の建築基準を設計したり、制度を運用したり、震災対策に関与している業界や官庁はこの事実を重く受け止め、チリの現地に人を派遣し日本の耐震設計基準に、或いは震災対策に更に磨きをかけてもらいたい。

出張した際のチリについていくつか印象があるが、チリ人が自慢げに「交通違反をして警察官に止められたら、南米の他の国なら警察官に小金をつかませれば見逃してくれるが、チリでそれをやれば警察官に捕まる」と言われたことを覚えている。後日アルゼンチンに出張した際その話をしたら「まあその通りでしょうな」と言われたので一層その記憶が鮮明だ。

ところが今回は救援物資の到着が数日遅れたこともあり、コンセプシオン市内各地でスーパーマーケット略奪が起き、大統領の要請で軍が出動する事態になった。阪神・淡路大震災では、このようなことはおきておらず(「ウサンクサイおじさんたちが倒壊住宅をのぞいていた」という類の話は枚挙にいとまないが)、日本人の秩序意識の高さを誇るむきがある。しかし、阪神・淡路大震災の際、神戸の隣の大阪は殆ど無傷で消防車や救急車がかけつけ(大阪の消防車のホースのカプリングが神戸の消火栓のカプリングとが合わず消火活動に支障がでたと言ったマンガのような話があるが)、救援物資もすぐ届けることができた。一方チリの場合コンセプシオン市域を離れれば約600キロ離れた首都のサンチャゴや港湾都市ヴァルパライソまでは約200キロ離れた人口17万人のChillanチラン市、人口19万人のTalcaタルカ市以外これといった都市はない。そのチラン、タルカ両市にも甚大な地震被害がでている。さらに道路も鉄道も寸断されているという状況で、救援物資の到着が遅れたのにはそれなりの理由があったといえる。我々はこのような状況におかれたとき、果たしてまったく暴動や略奪がおこさないと断言できるのだろうか?

尚1月におきたハイチの地震の場合、そもそも1842年以来地震が発生したことがなく、そのため国として震災に対する意識が低く、また建築基準法が実質的に存在しないような国なので、今回の考察の対象外としている。

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