ユーロ防衛策発動に思う2010/05/11 23:43

5月10日早朝、11時間にわたる協議を経てEconomic and Financial Council (ECOFIN、EU

蔵相会議)は、IMFの拠出金2500億ユーロ(30兆円)を含む総計7500億ユーロ(90兆円)の

ユーロの安定策に合意した。今回の安定策は既に発表されているギリシャ向けの1100億ユ

ーロ(13兆円)の支援策に対する追加だ。この結果を受けた世界の金融市場の動きを見る

と、ギリシャ通貨危機に端を発したユーロ不安はこれでとりあえず終息したものと思われる。

会議の結果を総括したEU事務局のOlli Rehnオリー・レーンは

 

e reaffirm our commitment to ensure the stability, unity and integrity of the euro area

我々はユーロ圏の安定、統合、信頼を維持することの責務を再確認する

 

と発言したが、これはまさに私がギリシャ問題に関連して「それでもなんとかなるでしょう」

http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2010/04/06/4997644

で「EU には都度それに対処するメカニズムが存在しているということを認識しておく必要が

ある」と書いたことの実現だ。何のかんのと言いながら、ヨーロッパ統合という大目標を共有

するEU諸国は時間がかかっても何らかの合意に到達するのだ。いや、せざるを得ないの

だ。

 

我々はよく「ヨーロッパ人は何であんなに休暇をとっても生活をエンジョイしながらやってゆ

けるのだろう?」という疑問を持つことがあるが、ヨーロッパの、少なくとも南ヨーロッパで

は、その優雅な生活を維持するためのバランスが崩れ始めており、日本にいる我々が既経

験している生活水準の低下といった縮小均衡に直面することが現実の可能性として出てき

ている。温暖な気候、美しい自然環境や文化遺産、うまい食事と酒がとりえの南ヨーロッパ

のスペイン、ギリシャ、ポルトガル、イタリー。極端な言い方をすれば、はたして今後これだ

けでEUのメンバーとしてそれなりに充実した社会保障や福祉を維持し続けることができる

のだろうか?

 

しかし問題をもう少し別な観点から見てみる必要がある。EU加盟以来、南ヨーロッパの

国々が優雅な生活を維持できた背景の一面は資金がEU本部から補助金の形で、或いは

「アルプスの北の国々」から民間融資の形で流れ込んだからだ。5月10日にNew York

Timesが作成した以下の図を見ていただければ、如何にドイツやフランスやイギリスの銀行

からPIIGS(ポルトガル、イタリー、アイルランド、ギリシャ、スペイン)諸国に大量の民間融資

が流れ込んだのかわかる。つまりPIIGS諸国の経済成長や優雅な生活の大きな部分がEU

本部や「アルプスの北の国々」からの融資に依存しており、貸し込んだ「アルプスの北の

国々」の金融機関はPIIGS諸国が債務不履行になると自分自身債務超過となる、いわば一

蓮托生の関係にあるだ。

 

PIIGS諸国の債権債務



ヨーロッパ統合は見た目よりはるかに進行しており、政治家が「ギリシャは先ず自助努力

を」と公式声明を出してみたところで、その実ギリシャが債務不履行になれば真っ先に困る

のが750億ドル貸し込んでいるフランスの金融機関であり、450億ドル貸し込んでいるドイツ

の金融機関なのだ。スペインやイタリーの場合は「アルプスの北」の金融機関が貸し込んで

いる規模は更に大きい。EUの今回の声明「我々はユーロ圏の安定、統合、信頼を維持す

ることの責務を再確認する」の背景にはこのもはや後戻りできないヨーロッパ統合の認識が

あることを見逃してはならないだろう。

 


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