クリケットの世界 追録2010/08/31 20:23

「クリケットの世界」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2010/08/10/5278800
でインド亜大陸の諸国ではクリケットが非常にポピュラーなスポーツであると書いた。モンスーンの記録的な降雨によるインダス河流域の大氾濫で数千万人規模の被害が出ているパキスタンで、今度はクリケットの八百長疑惑で文字通り国が揺れている。

事の起こりは8/29にイギリスのスポーツ紙が、当日が最終日となった5日間にわたるクリケットのイングランド/パキスタン戦でパキスタン側の八百長を仕切ったとされる人物とのインタービューを現ナマが動く現場の実写を含めて報道したことだ。

どのような八百長が行われたのだろう?

投手がマウンド上の一定位置から投球する野球と異なりクリケットのbowlerボウラー(投手)は投球する前に助走する。そしてウィケットから20ヤード2フィート(18.9m)離れたpopping creaseポッピング・クリースといわれる線と、22ヤード(20.1m)離れたbowling creaseボウリング・クリースといわれる線との間で、つまり6フィート(1.8m)の幅の中に両足がある状態で投球しないとno ballノー・ボール(野球で言うボール)となる。野球のボールと異なる点はノー・ボールになると一点が加算されることだ。

八百長の基本形は試合結果を「調整」してしまうことだ。しかしクリケットのように試合が長丁場になるゲームで、試合結果を調整するとなると結構大変だ。一方イギリスではクリケット試合の様々な局面に対して賭けることができる。そのような賭けを請けるノミ屋は概ねlicensed betting
parlourといわれる合法ビジネスだ。パキスタンチームの投手がノー・ボールを投げるタイミングが賭けの対象となること自体は合法だ。八百長の胴元はこのタイミングをパキスタンの選手との間で「握った」わけだ。胴元の言った通りのタイミングでパキスタンの投手がノー・ボールを出したので胴元と投手の間でキッチリ話がついていただろうということが確認できた。当然これで誰かがどこかで「シメシメ」といって賭け金の儲けを数えているはずだ。

今回のモンスーンに伴う水害で、対応の遅れを指摘されているパキスタン政府もこれには即座に動き出した。水害が発生してもヨーロッパ外遊を中止しなかったことで世界中の批判をかったザルダリ大統領はニュースが流れると即座にPakistan Cricket Boardパキスタン・クリケット協会に対し事態の推移を逐次報告するよう指示を出したし、ギラニ首相は”I am deeply pained (by the
reports). Our heads have been bowed in shame" 「 (報道に接して) 私は深く心が痛む。恥で首を垂れるのみだ」と、パキスタンの選手が八百長に関与したことが国の恥に当る行為だとの声明を8/30に発表している。

パキスタンのムシャラフ前大統領は事態を評してこれはnothing short of treason国賊と呼ぶに値する行為だと言えば、パキスタンのクリケット界の大御所Imran Khanイムラン・カーンは、首謀者はexemplary punishment見せしめのため厳罰に処すべきだと発言している。

すべて「有史以来」とまで形容される大洪水のもたらした災禍にどう対応しようかまだ手をつけかねている国の話だ。「今はクリケットの八百長どころではないだろうに」といってはいけない。国技相撲の力士や親方が野球賭博をやったどころの話ではないのだ。

インド亜大陸においてパキスタンは昔からbunch of crooksロクデナシの集団といわれてきた
(crookという英語はロクデナシと悪人の間のようなニュアンスのある言葉だ)。知人が「救われんわぁ。弁護士にこんなこと言われたんやで」と言って頭をかいていたことがある。パキスタンの企業とのもめごとでパキスタンの弁護士に相談に行ったところ、相手に”You have to expect this.
Everyone is a crook here”「こんなことは日常茶飯だ。この国の人は皆ロクデナシだ」といわれたためだ。私の会ったことのあるスリランカ人やバングラデシュ人、つまりインド人とパキスタン人を比較することができる人たちからも、このようなパキスタン人に関してこれに類する評価を聞かされたことが何度もある。

もっとも、わたくしは言ったことを採算度外視で最後までやりぬいたパキスタンの企業と取引したこともある。従い今回の一件をパキスタンだけの話と片付けてはいけないと思う。

スポーツに絡んだMatch fixing八百長話はインドでもはたまた日本でもよく耳にする話だ。スポーツに対する関心や、流れ込むお金からいって、八百長が起きないほうが不思議なのだ。

今回の一件は「『紳士のスポーツ』クリケットで起きたパキスタンらしい不祥事」というよりは、むしろインド亜大陸においていかにクリケットが国民の強い関心を呼ぶスポーツなのかを示す一つの象徴のような一件だと理解すべきだろう。

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