福島第一・第二原発は廃炉、周辺は立ち入り禁止区域とすべきだ2011/03/31 12:41

3月11日の東北地方太平洋岸の震災・津波で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。塩野崎、松島、牡鹿半島、浄土ヶ浜といったこの地域の海の景勝地を旅したことのあるものにとって、今回の災害がこの地域にもたらした惨状を知るにつけ非常にやるせない気持ちです。亡くなられた方々のご冥福と、残られた方々のご健康と一日も早い復興を祈念しています。

原発に関しての一連の報道を見ていて感じるところがあり長らく休筆していたブログを再開した。

私は福島第一および第二原発は廃炉とし、海上を含む周辺数十キロを永年立ち入り禁止区域に指定すべきだと考えている。

この理由を書く前に、余談から始めたい。1939年、ノモンハン事件の際ソ連軍の指揮を執っていたジューコフ将軍が事件後にスターリンに呼ばれ日本軍の戦いぶりについて報告を求められたという。ジューコフはまず日本兵があらゆる困難にもめげず、果敢に高い士気を持って戦い続けたことをスターリンに説明した。「そんな敵を相手にわが軍はよく勝てたね」とのスターリンの質問に対し、ジューコフは「それは同志元帥、日本軍の指揮官たちに戦略を立てる能力が欠如していたからです」と応えたという。

「現場主義」という言葉がある。日本のメーカーは現場の継続的な努力を結集して高い品質の製品をつくることが得意だ。そのため経営者は現場のやる気を殺がないよう配慮する。ここまでは良い。しかしその経営層レベルで、ち密な状況分析をもとに全体を俯瞰し戦略を作り、それをもとに組織を統率する能力が薄弱なため、往々にして現場を抑えられず、現場が市場のニーズから乖離した製品を製造し続けるのを止められないといった側面がある。最近でその最も典型的な例はゴーン改革前の日産自動車だ。どれもこれもピンとこない、これといった魅力のない車を作り続けてジリ貧になり、ルノーの資本と人材を受け入れることになった。乗り込んできたカルロス・ゴーンが日産車を片っ端から試乗してみて「スカイライン以外見るべきクルマがない」といったとかいう逸話がある。これは日本の組織に共通する話で、別にメーカーに限ったことではない。前述のノモンハン事件も本社(=大本営)が現場(=関東軍)の暴走を抑えられなかった一例だし、第二次世界大戦参戦及び敗戦に至る過程もまた同じだ。

我々日本人は全体を俯瞰し、状況を冷静に分析してある方向を予測し、その方向に向かって自分の持てる資源を集中させることが下手なのだ。この一因は日本の教育が「冷静に分析」するための社会科学的な手法のトレーニングを十分に行えていないことにあると思うが、この辺についての論考は別稿にゆだねたい。

一連の福島第一原発に関する報道を追っていると、懸命に原発の暴走を止めようと、命を賭して働く現場の人たちの努力には本当に頭が下がる。その一方「どうもすべての動作が後手後手に回り、後追いになっているのではないか」との印象を持つのは私だけだろうか?

原発は一つの大きなシステムだ。冷静に考えれば、送電線からの電気がとまり、非常用の電源が止まれば、発電所内のあらゆるシステムや機器が停止し、冷却水ポンプが停止し、炉心が過熱し、貯蔵している燃料棒が過熱し…と芋づる式に事態が進展するであろうということが全体のシステムが分かっている人間には見えていたはずだ、と考えることに無理があるだろうか?

眼前の火消しに追われる現場の人にこのようにシステム的に考えろというのは無理がある。しかし、東京電力の本社や、経済産業省の一部局である原子力安全・保安院にいる人はそれを考えることができなかったのだろうか?

私は原子力の専門家ではない。しかし一介の素人として事態の推移を追っているといくつかの疑問に突き当たる。

3月12日に1号炉で水素爆発が起きた時に、何で水素が原子炉から格納容器に漏れ出し、更に建屋に漏れ出してこれたのだろう?常識的にいえば、原子炉と格納容器双方に亀裂が入りそこから水素が漏れたと思うのだが…また建屋の上半分を吹っ飛ばすほどの水素爆発で格納容器に損傷がないことはあり得ないのではなかろうか?高校の化学の実験で水素を爆発させた人なら、それがいかに強力な爆発であるかは知っていると思う。

3月14日に3号炉で水素爆発が起きる。その時点で誰も原子炉に亀裂が入っているという可能性を疑わなかったのだろうか?

3月15日に今度は2号炉のサプレッション・チェンバー(圧力抑制室とも訳される)に損傷が出たと思われる爆発がおこり、4号炉でも爆発が起きた。4号炉の方はプールに貯蔵された燃料棒が過熱し水素が発生し爆発したと考えることができるだろう。しかし、2号炉のサプレッション・チェンバーが損傷すれば放射能で汚染された水がコンクリートのヒビを伝って地下水系に漏出している可能性を当然想定する必要があるのではなかろうか?

3月24日に3号炉に隣接する発電タービン建屋地下で作業員が400mSv(ミリシーベルト)/ 時の放射線量のある水深15cmの水たまりで被曝。このような放射能汚染水が原子炉に隣接するタービン建屋にまでまわりこんでいるということは、3号炉の原子炉と格納容器に亀裂が入って原子炉内の水が漏れがしているという分析ができないのだろうか?

3月25日には付近の海水から50Bq(ベクレル)/ ccのヨウ素131が検出され、発電所内の放射能で汚染された水が海に流出していることが判明した。ここまでくれば福島第一の原子炉と格納容器に亀裂が入り、放射能が周辺の空気と水を汚染している確率がさらに高いだろうことは誰が見ても明らかだと思う。

3月27日に4号炉の燃料棒貯蔵プールへ海水を注ぎ込み始めた。現状4号炉の床には800mm程度の水深で放射能に汚染された水がたまっているという。この水はどこから来てどこに流れてゆくのだろう?

3月28日には1~3号機の海側にある深さピットとそれにつながるトレンチ(トレンチを下水、それに降りるためのマンホールがついた立て抗をピットと考えてもらうとイメージしやすい)に1000mSv / 時以上という高い放射線量の水がたまっていることが発見される。トレンチは発電タービン建屋につながっているので、原子炉や使用済燃料棒を冷却するために注いだ水がここに流れ込んできていると見るのは無理がない推測だろう。

3月30日、東電は1~4号炉の廃炉を発表した。5、6号炉には損傷がないということだが、5、6号炉にしたところでそれぞれ数日は電気が来ず、冷却水ポンプも回らずという状況を経験している。本当に大丈夫なのだろうか?

このように経緯を追ってゆくと、福島第一の少なくとも1~3号炉は原子炉と格納容器には亀裂が入っていて、そこから放射能が周辺の水や空気に漏れだしている可能性が高いことを疑う必要がある。また4号炉は原子炉と格納容器損傷の確度は相対的に低いものの、使用済み燃料棒冷却のために注水した水や使用済み燃料棒冷却プールからあふれた水が原子炉建屋の床をヒタヒタと覆っている状況だと考えて差支えなかろう。東京の地下鉄の駅構内の随所に常時地下水がチョロチョロあふれ出ていることを目にしているものとしては、この原子炉建屋内の水が建屋に完全に閉じ込められているとは到底考えられない。

福島第一原発から飛散した、或いは地下水に流出した放射能は半減期の問題からそう簡単に消え去ってくれない、つまりは長いおつきあいになる。

このような理解に立つと、最低限何を政府がなすべきかは明白だと思う。

福島第一原発は全体を廃炉にして、これ以上の放射能の飛散や流出が起きないようにする(チェルノブイリの場合発電所全体をセメント詰めにしている)。昨日東京電力が発表した1~4号炉だけの話ではない。問題が起きていないとされる5、6号炉にしたところで、本当に問題がないのかはまだ十分検証されていない。また周辺にあれだけ放射能が飛び散っている状況で運転や保守要員の安全が確保できる状況ではないことは明白だ。

福島第一原発から一定の距離は海陸共に未来永劫立ち入り禁止区域にすると同時に、地下水の流れをきちんと把握し、禁止区域外に流出しないような対策を講じる。これは福島第一原発の付近の土壌には放射性物質の落下や放射能による地下水汚染があると考えられるからだ。

福島第二原発は恐らく上記の「一定の距離」内に入ることになるので、ここも廃炉にすることを検討すべきだろう。

日本の原子力を推進してきた経済産業省の官僚があれこれ雑音を出すだろうが、これには耳を貸さず、菅総理大臣がはっきりこれらの方針を打ち出し、その実現の工程を明示すべきだ。

水のなるほどクイズ2010