巷説を排す – そんなにアメリカとEU圏で状況が異なるのか? ― 2012/01/18 00:39
ユーロ危機について語る場合、よく連邦制国家のアメリカと対比して「ユーロ圏は金融政策が統合されているが、財政政策は域内各国が独自に策定できるのがアンバランスで問題だ」といった種類の議論が行われる。
現在のユーロ危機が生起した背景を調べれば、ユーロ圏に加わったアイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリー、ギリシャなど欧州周辺諸国(PIIGSとかperiphery statesとか言われる)が、加盟と同時にドイツ並みの低金利の恩恵に浴し、EU本部からの補助金も得て経済成長がはじまり、それをめがけて欧州各国の銀行が資金を貸し込み、投資家が投資を行っていわゆる好循環が始まり、それがバブル状態に至ったことは事実だ。
何でドイツ並みの低金利になったかと言えば、「マーストリヒト条約で財政規律を協定したユーロ圏諸国の経済の安定性は平準化され、その結果周辺諸国に貸し込むリスクはドイツやオランダに貸し込むリスクと大差ない」とみなされたからだ。
そのバブルが弾け、PIIGS諸国の政府当局は経済のブレーキを踏んでバブルで膨らんだ経済を引き締めることが求められ、バブルの原因になっていた資金の返済を求められた。
数年前に知人のアイルランド人の弁護士がどんどん借金をしてどんどんアイルランドの都市部の不動産を買うので「そんなに需要があるのか?」と尋ねたら「南の共和国では新たなサービス産業が増えて景気が良いし、イギリスの一部である北では復興需要で景気が良いので今がチャンス」と言われたが、Celtic Tigerケルトの虎といわれたアイルランド共和国は現在バブルが崩壊して経済建て直し中だ。彼の不動産投資はどうなったろう?
貸し込まれたお金のほとんどは既に、弁護士の知人のケースのように、不動産のような固定資産にまわっており、一挙にこれを流動化する(つまり売ってお金を作る)わけにもゆかないので、EU諸国の政府やECB(欧州中央銀行)主導で債務の繰り延べや、追加融資や債務の減免をやって軟着陸をめざしているのが現状だ。関係者の合意がなかなかまとまらないので、その都度「ユーロ危機だ」との観測が流れるが、「債権者と債務者の交渉ごとはいつもゴタゴタするものなので、いずれなんらかの着地点に到達するであろう」というのは2010年春のこのブログの一連のエントリーにおける私の主張のポイントだ。当時のエントリーは以下のとおりだ(ずいぶん書いたなぁ):
「EUの政策はこう作られる—ギリシャ経済危機への対処をめぐって」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2010/03/27/4975737
「それでもなんとかなるでしょう」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2010/04/06/4997644
「ユーロ防衛策発動に思う」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2010/05/11/5080565
このようなEUの状況をアメリカと対比し「どう本質的に違うのか」という点について注意深い検討を行うことが必要だ。
英語ではアメリカの州のことをState(国家)と呼んでいることからもわかるように、アメリカはドルという共通通貨で結ばれた連邦制国家だ。「いやいや州と国家では違う」などと言ってはいけない。アメリカの代表的な国際取引法の教科書に登場する判例は、州にまたがる事案の処置に関するものから出発しており、州は国家なのだ。
「国境を越えると言語や文化が異なるヨーロッパと、地図に真っ直ぐな人工的な州境の線が引かれているアメリカでは異なる」と言っても、アメリカの州が外交権や対外的な軍事権を連邦政府に委ねた国家であるという事実は変わらない。
そのアメリカの州レベルの経済政策はどうなっているのか?州財政の破たんが日本のメディアにも登場したカリフォルニア州を例にとって考えてみよう。
2009年にカリフォルニア州が債務不履行になりそうになり、当時のシュワちゃんことシュワルツネッガー知事が連邦政府による州債の保証を要請した。ところがオバマ大統領は「連邦政府はそのようなことはできない」と言ってこの要請をけっている。アメリカの中央銀行であるFRB連邦準備銀行も別にカリフォルニア州債を担保に資金を州政府に貸し出すような支援策をとってはいない。
これをPIIGS諸国の場合と対比してみればよい。EU諸国はPIIGS諸国の問題が起きた時点で即座に首脳会議を開き、IMF国際通貨基金とも連携してあれやこれやの対策を繰り出している。最初のうちは対応が消極的だったECBも、遅ればせながら様々な金融支援策を打ち出している。ギリシャ関係だけで首脳会議はこれまで10回開催され、都度対策が発表され、ECBの支援策も継続している。
連邦政府の支援がないカリフォルニア州は結局州の専管事項である教育や警察などの公共サービスを削ったり、公共事業を削減したり延期したり、果ては州の支払延期をしたりしてしのぎながら今日に至っている。何とか持っているのは州債の発行ができているからだが、金融市場がどこまで今の事態に目をつむって付き合ってくれるのだろう?
カリフォルニア州の公立高校の教師をしていた人物と話していたら、英語の不自由な移民の子弟向けの教育プログラムの話をしていたので、私がHow is it funded?(財政的にはどのようにサポートを受けているのだ)と質問したらNo funding(予算措置なんて講じられていない)と言って首をすくめられた。彼のそのプログラムは民間の善意に支えられて存続しているということだった。
今のところ問題はカリフォルニア州債の若干の利回り上昇程度ですんでいるが、州財政が根本的に破たんして、公共サービスが更に削られたらカリフォルニアの経済成長には甚大な影響が及ぶ。目先の治安や生活環境の悪化だけではない。インフラの補修の遅れや、公共交通機関の削減、公教育のレベル低下は長期的には必ずやボディーブローのように効いてくる。治安や生活の不安を覚えたカリフォルニア州民が大量に近隣の州に移住してくることになるだろう。こうなった時金融市場はどう対応するのだろう。
カリフォルニア州で州の財政危機が起きる理由は、州内に財政赤字を埋めるだけの富が存在していないということではなく、税収を増やすために増税しようにも州議会で簡単にこれに対する賛成を得られないからだ。PIIGS問題は、ユーロ圏全体ではPIIGS諸国の債務を十分帳消しにできる資産があるにもかかわらず、その分配をめぐってユーロ圏諸国間でなかなか調整がつかないだけのことだ。カリフォルニア州にしても、ユーロ圏にしても単に資金負担を巡ってモメているという点では全く異ならない。
否「PIIGS諸国を突き放すのではなく、何とかしようとEU諸国があれこれ議論をして遅まきながらも対策を打ち出して行くだけ、EUの方がマシではないか」という評価もできよう。
現在市場はユーロ圏の混乱に目を向けているが、これは単に「アメリカでは金融政策と財政政策両方を連邦政府やその機関が立案、執行できるから問題の処理が統一的にできるだろう」という勝手な思い入れの結果であり、この種の思い入れは州財政の破たんというストレステストが行われていないことには目をつぶっているから可能であることを忘れてはならない。アメリカの州が本当に破産し始めたら、連邦政府は州財政の救済に乗り出すのだろうか?現在のアメリカの二極分解した政局を見れば、連邦政府が容易に救済に乗り出せないことは一目瞭然だ。
何かの契機でアメリカの財政が裸の王様にすぎないことが分かったとき、世界の金融業界はどうするのだろう?
現在のユーロ危機が生起した背景を調べれば、ユーロ圏に加わったアイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリー、ギリシャなど欧州周辺諸国(PIIGSとかperiphery statesとか言われる)が、加盟と同時にドイツ並みの低金利の恩恵に浴し、EU本部からの補助金も得て経済成長がはじまり、それをめがけて欧州各国の銀行が資金を貸し込み、投資家が投資を行っていわゆる好循環が始まり、それがバブル状態に至ったことは事実だ。
何でドイツ並みの低金利になったかと言えば、「マーストリヒト条約で財政規律を協定したユーロ圏諸国の経済の安定性は平準化され、その結果周辺諸国に貸し込むリスクはドイツやオランダに貸し込むリスクと大差ない」とみなされたからだ。
そのバブルが弾け、PIIGS諸国の政府当局は経済のブレーキを踏んでバブルで膨らんだ経済を引き締めることが求められ、バブルの原因になっていた資金の返済を求められた。
数年前に知人のアイルランド人の弁護士がどんどん借金をしてどんどんアイルランドの都市部の不動産を買うので「そんなに需要があるのか?」と尋ねたら「南の共和国では新たなサービス産業が増えて景気が良いし、イギリスの一部である北では復興需要で景気が良いので今がチャンス」と言われたが、Celtic Tigerケルトの虎といわれたアイルランド共和国は現在バブルが崩壊して経済建て直し中だ。彼の不動産投資はどうなったろう?
貸し込まれたお金のほとんどは既に、弁護士の知人のケースのように、不動産のような固定資産にまわっており、一挙にこれを流動化する(つまり売ってお金を作る)わけにもゆかないので、EU諸国の政府やECB(欧州中央銀行)主導で債務の繰り延べや、追加融資や債務の減免をやって軟着陸をめざしているのが現状だ。関係者の合意がなかなかまとまらないので、その都度「ユーロ危機だ」との観測が流れるが、「債権者と債務者の交渉ごとはいつもゴタゴタするものなので、いずれなんらかの着地点に到達するであろう」というのは2010年春のこのブログの一連のエントリーにおける私の主張のポイントだ。当時のエントリーは以下のとおりだ(ずいぶん書いたなぁ):
「EUの政策はこう作られる—ギリシャ経済危機への対処をめぐって」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2010/03/27/4975737
「それでもなんとかなるでしょう」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2010/04/06/4997644
「ユーロ防衛策発動に思う」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2010/05/11/5080565
このようなEUの状況をアメリカと対比し「どう本質的に違うのか」という点について注意深い検討を行うことが必要だ。
英語ではアメリカの州のことをState(国家)と呼んでいることからもわかるように、アメリカはドルという共通通貨で結ばれた連邦制国家だ。「いやいや州と国家では違う」などと言ってはいけない。アメリカの代表的な国際取引法の教科書に登場する判例は、州にまたがる事案の処置に関するものから出発しており、州は国家なのだ。
「国境を越えると言語や文化が異なるヨーロッパと、地図に真っ直ぐな人工的な州境の線が引かれているアメリカでは異なる」と言っても、アメリカの州が外交権や対外的な軍事権を連邦政府に委ねた国家であるという事実は変わらない。
そのアメリカの州レベルの経済政策はどうなっているのか?州財政の破たんが日本のメディアにも登場したカリフォルニア州を例にとって考えてみよう。
2009年にカリフォルニア州が債務不履行になりそうになり、当時のシュワちゃんことシュワルツネッガー知事が連邦政府による州債の保証を要請した。ところがオバマ大統領は「連邦政府はそのようなことはできない」と言ってこの要請をけっている。アメリカの中央銀行であるFRB連邦準備銀行も別にカリフォルニア州債を担保に資金を州政府に貸し出すような支援策をとってはいない。
これをPIIGS諸国の場合と対比してみればよい。EU諸国はPIIGS諸国の問題が起きた時点で即座に首脳会議を開き、IMF国際通貨基金とも連携してあれやこれやの対策を繰り出している。最初のうちは対応が消極的だったECBも、遅ればせながら様々な金融支援策を打ち出している。ギリシャ関係だけで首脳会議はこれまで10回開催され、都度対策が発表され、ECBの支援策も継続している。
連邦政府の支援がないカリフォルニア州は結局州の専管事項である教育や警察などの公共サービスを削ったり、公共事業を削減したり延期したり、果ては州の支払延期をしたりしてしのぎながら今日に至っている。何とか持っているのは州債の発行ができているからだが、金融市場がどこまで今の事態に目をつむって付き合ってくれるのだろう?
カリフォルニア州の公立高校の教師をしていた人物と話していたら、英語の不自由な移民の子弟向けの教育プログラムの話をしていたので、私がHow is it funded?(財政的にはどのようにサポートを受けているのだ)と質問したらNo funding(予算措置なんて講じられていない)と言って首をすくめられた。彼のそのプログラムは民間の善意に支えられて存続しているということだった。
今のところ問題はカリフォルニア州債の若干の利回り上昇程度ですんでいるが、州財政が根本的に破たんして、公共サービスが更に削られたらカリフォルニアの経済成長には甚大な影響が及ぶ。目先の治安や生活環境の悪化だけではない。インフラの補修の遅れや、公共交通機関の削減、公教育のレベル低下は長期的には必ずやボディーブローのように効いてくる。治安や生活の不安を覚えたカリフォルニア州民が大量に近隣の州に移住してくることになるだろう。こうなった時金融市場はどう対応するのだろう。
カリフォルニア州で州の財政危機が起きる理由は、州内に財政赤字を埋めるだけの富が存在していないということではなく、税収を増やすために増税しようにも州議会で簡単にこれに対する賛成を得られないからだ。PIIGS問題は、ユーロ圏全体ではPIIGS諸国の債務を十分帳消しにできる資産があるにもかかわらず、その分配をめぐってユーロ圏諸国間でなかなか調整がつかないだけのことだ。カリフォルニア州にしても、ユーロ圏にしても単に資金負担を巡ってモメているという点では全く異ならない。
否「PIIGS諸国を突き放すのではなく、何とかしようとEU諸国があれこれ議論をして遅まきながらも対策を打ち出して行くだけ、EUの方がマシではないか」という評価もできよう。
現在市場はユーロ圏の混乱に目を向けているが、これは単に「アメリカでは金融政策と財政政策両方を連邦政府やその機関が立案、執行できるから問題の処理が統一的にできるだろう」という勝手な思い入れの結果であり、この種の思い入れは州財政の破たんというストレステストが行われていないことには目をつぶっているから可能であることを忘れてはならない。アメリカの州が本当に破産し始めたら、連邦政府は州財政の救済に乗り出すのだろうか?現在のアメリカの二極分解した政局を見れば、連邦政府が容易に救済に乗り出せないことは一目瞭然だ。
何かの契機でアメリカの財政が裸の王様にすぎないことが分かったとき、世界の金融業界はどうするのだろう?
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