国会事故調の報告書公表 -- 日経新聞の偏向を排す ― 2012/07/06 22:57
7月5日に東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(略称 国会事故調)が国会に報告を提出した。「国会議員のうち何人が、本文9頁のダイジェスト版だけでも読んでくれるんじゃろう?」とか「しかし読んでもそこで書かれていることの重大さをきちんと認識できるんじゃろうか?」とか思いながら、まずダイジェスト版を読んだ。その後要約版(全104頁)も読んだが、書かれていることは以下の二点にまとめられる。
l 東日本大震災に伴う福島原発事故はその発生原因、それに対する対処の両面から、日本の原子力安全政策のsystemic failure(システム全体の失敗)、というか戦後日本のシステム全体の破綻が露呈した。
l そのような失敗が今後起こらないよう国会事故調として、規制当局に対する国会の監視、政府の危機管理体制の見直し、被災住民に対する政府の対応、電気事業者の監視、新しい規制組織の要件、原子力法規制の見直し、独立調査委員会の活用の7項目にわたる提言を行う。
実は国会事故調のレポートには余り期待していなかった。と言うのは事前に「すでに一部が公表された国会事故調の見解では、事故発生直後の首相官邸の政治家の対応を厳しく批判」(朝日新聞 2012年6月30日朝刊)という類の報道が流れていたからだ。
私は官邸の介入問題については、そもそも「想定外」の事態が続発して関係者が右往左往し、デタラメ先生と陰口を叩かれる斑目前原子力安全委員長を始めとする「専門家」とされる人たちのいうことが全く頼りにならない状態で、事務手順としては問題があったにせよ、菅首相を始めとする官邸がやむにやまれず直接事態に関与したのだと考えているので、官邸の行動がそもそも問題だったという類の見解には全く同意できない。従いこの種の報道に接して「日本には珍しい国際級の学者として名高い黒川清(国会事故調委員長)もこんな程度なんだ」と失望していた。
しかし、まずダイジェスト版を読むと、私の黒川に対する評価は一変した。序文で黒川は明快に
前例を踏襲すること、組織の利益を守ることは、重要な使命となっ
た。この使命は、国民の命を守ることよりも優先され、世界の安全に
対する動向を知りながらも、それらに目を向けず安全対策は先送りさ
れた。そして、日本の原発は、いわば無防備のまま、3.11 の日を迎え
ることとなった。
この事故が「人災」であることは明らかで、歴代及び当時の政府、規
制当局、そして事業者である東京電力による、人々の命と社会を守る
という責任感の欠如があった。
と断じている。
確かに[ 緊急対応の問題 ]の項目で
官邸は東電の本店及び現場に直接的な指示を出し、そのことによって
現場の指揮命令系統が混乱した。
と指摘している。しかしそれは全体からみればごく一部の箇所であり、この部分だけ取り上げて記事にしたのでは報道のバランスが著しく欠けていると言わざるを得ない(ウソだと思ったら原文を読んでみて下さい)。
「こんなに明快な見解を日本のマスコミはどう報道したのだろうか?」とおもって、朝毎読三紙にNHK、日経を読んでみたが、「『原発事故は人災』」国会事故調が報告書決定、官邸の過剰介入を批判」(日本経済新聞 電子版2012年7月5日 13:35)という見出しからわかる日経の報道に接してあきれてしまった。
さすがに「これはまずい」と思ったのだろう。同22:58になると「原発への監督機能『崩壊していた』 国会事故調 東電とのなれあい批判」と見出しは変わり菅首相批判の方も
事故直後の対応では、東電経営陣、規制当局、首相官邸のいずれも
「準備も心構えもなく、被害拡大を防ぐことができなかった」と厳し
く責任を追及した。過去の事故の規模を超える災害の備えが無い保安
院は原子力災害対策本部の事務局の役割を果たせなかった。
とトーンダウンした。報告書発表前の報道各社の報道や、日経の13:35の記事が露骨に東電記者クラブ或いは経団連記者クラブ発のネタに影響された、いわば財界の広報に踊らされた内容であったろうと想像できるということがわかる。
「オリンパスの元社長Michael Woodfordマイケル・ウッドフォードの記者会見に出席した」
を読んだ方なら、私が日経新聞のことを業界御用新聞だと思っていることをご存知だろう。はからずもまたその証拠があがってしまった感じだ。
福島原発事故を矮小化しよう、責任逃れをしよう、という勢力の論拠は取りあえず国会事故調の報告発表で失われた。しかし彼らがいなくなったわけではない。この種の連中は今後とも執拗にかつ徹底的に狩りだされ、国のエネルギー政策への関与から永遠に排除されるべきだ。
コメント
_ 国土国民守隊 ― 2012/07/13 08:32
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自然災害ではない「明らかに人災」と文字を表示して、管首相の現場視察映像を流し、国会事故調の言っている「人災の意味」震災時のような津波が来た場合、国や東電は、全電源喪失が起こりうることをわかっていたにもかかわらず対策を取ってこなかった。と批判し、これをもって人災だとしていることが、報道されなかった。