Slumdog Millionaire ( スラムドッグ$ミリオネア ) ― 2009/02/28 00:43
今年のアカデミー賞では日本映画が二部門で優勝したために余り話題になっていないが、今年のアカデミー賞では映画 Slumdog Millionaire が最優秀映画賞を含む8部門優勝と圧勝した。日本では4月に邦題「スラムドッグ$ミリオネア」で公開予定だそうだ。話は「月給900ルピーの貧しい青年がテレビのクイズショーに出て十億ルピーもの賞金をかちとった。貧民街で育ち何の教育もない彼が難問を解けたのには驚くべき秘密が」(2/25付の日本経済新聞朝刊より)というものだ。
この映画は昨年12月からヨーロッパで一般公開が始まりアメリカは1月に一般公開されたが、その時点で相当前評判が高かった映画であり、いつものことながら何で日本で外国映画の公開がこうも遅れるのか (インドネシアだって2月に公開済!)日本の映画関係者の猛省を促したい。「世界同時公開」とか「日米同時公開」などというキャッチがいまだに使えること自体大問題だと思う。
邦題にも疑問がある。原題の意味は「スラムの野良犬から億万長者に」だ。意味不明のカタカナを並べるより、もう少し気の利いた日本語の題名を考えつけなかったのだろうか?
閑話休題。ムンバイのスラムを舞台にした映画や芝居や小説には事欠かない。最近の例で言えば2002年にロンドンでオープンして大ヒットしたミュージカルBombay Dreamsがある(ちなみにSlumdog MillionaireもBombay Dreamsも作曲はA R ラーマン。ラーマンは今回のオスカーで最優秀音楽賞を受賞)。最近では観光客をスラムの中を案内するスラム・ツアーというのまである。
世界にあまたスラム街はあるがムンバイのスラムは
1. 絵になるほど際立った貧しさ。英語ではこの「絵になる」現象に対しpoverty porn(貧困ポルノ)という言葉があるくらいだ。
2. スラムの規模。ムンバイの人口の約6割(ということは約700万人)がスラムに住んでいるという推計もある。東京の区部の人口は約870万人だ。
3. インド最大の商業都市であるムンバイの繁栄と隣り合わせてスラム があるという極端さ。
4. [インド人が時々建前論的に持ち出す意見]: 貧しい中にも活き活き感があること。スラムの住人は概ねなんらかの生業を持っておりスラムはその生業(家内工業)の基地である。→ 正直なとこ私はこれは言い訳だと思う。
といった要素もあって話題になることが多いようだ。
しかし、例えば上記の4.の「希望に満ちたスラム」観はその実インドの人口11億人の内約8億人が極貧層であるといった事情から多くのインド人が貧困問題についてある種の諦めを持っているという事実を糊塗する論理である(無論スラムの状況を変えようと懸命に努力しているNGOが多数存在することもまた事実ではあるが)。釈尊が出家を志した理由がカピラヴァスツ城の外で老病死の姿を見たからだとされているが、釈尊の時代から(おそらくはそれ以前から)インドには厳しい生活を余儀なくされた貧しい人々が多数存在していたのである。
貧困の発生にはそれなりに構造的な要因があり、経済成長すれば自然と貧しい人々がいなくなるというほど単純な問題ではない。
構造的な要因とは、貧困が社会構造の中に組み込まれていて、貧しい人々のほとんどがいつまでも「人手によるゴミの分別」といった低付加価値の仕事から、より付加価値の高い仕事に脱却できない状況のことである。
どうしてスラムでもう少し付加価値の高い仕事をして生活水準を向上することができないのだろう?
インドの労働人口の60%が農業に従事している (中国は43%)。農村ではまだ農地改革が貫徹しておらず、小作人やその子弟にはスラムで得られる所得のほうが農村で得られる所得を上回る状況だ。当分の間、口減らしのため農村からはじき出された人々が低付加価値の仕事を続ける労働力の供給源となる素地があるということだ。農地改革をきちんと実施し、農村の所得を増やさないと、当面都会のスラムに向かう人口が減ることはないだろう。
どうしてスラムが増え続けるのだろう?スラムは不法占拠された土地に建設されているが、そこにはSlumlordといわれる家主がいる。数メートル四方の掘っ立て小屋でも家主に家賃を払わねばならない。その家主は地元の政治家に献金をすることでスラムが立ち退かされたりすることを防いでいる。地元の政治家はスラムに選挙区を設定することで安価に自分の地位を安定させられる。スラムをそのままにしておくことのためにいろいろ利権が働いているのである。
米国のForbes誌が公表するWorld’s Billionaires(世界の億万長者) リストの直近版によればインドの億万長者は53人、GNP総額がインドの4.7倍の日本はその半分以下の24人だ!都市部では弱体化してきているとは言ってもインドにはカースト制という身分制度が釈尊以前の時代から健在だ。このような不平等を固定化させるメカニズムの影響も構造要因として考える必要がある。
インドの貧困問題は「様々な構造的な要因があって、一朝一夕では解決できない」ということだけは認識しておく必要があるだろう。
この映画は昨年12月からヨーロッパで一般公開が始まりアメリカは1月に一般公開されたが、その時点で相当前評判が高かった映画であり、いつものことながら何で日本で外国映画の公開がこうも遅れるのか (インドネシアだって2月に公開済!)日本の映画関係者の猛省を促したい。「世界同時公開」とか「日米同時公開」などというキャッチがいまだに使えること自体大問題だと思う。
邦題にも疑問がある。原題の意味は「スラムの野良犬から億万長者に」だ。意味不明のカタカナを並べるより、もう少し気の利いた日本語の題名を考えつけなかったのだろうか?
閑話休題。ムンバイのスラムを舞台にした映画や芝居や小説には事欠かない。最近の例で言えば2002年にロンドンでオープンして大ヒットしたミュージカルBombay Dreamsがある(ちなみにSlumdog MillionaireもBombay Dreamsも作曲はA R ラーマン。ラーマンは今回のオスカーで最優秀音楽賞を受賞)。最近では観光客をスラムの中を案内するスラム・ツアーというのまである。
世界にあまたスラム街はあるがムンバイのスラムは
1. 絵になるほど際立った貧しさ。英語ではこの「絵になる」現象に対しpoverty porn(貧困ポルノ)という言葉があるくらいだ。
2. スラムの規模。ムンバイの人口の約6割(ということは約700万人)がスラムに住んでいるという推計もある。東京の区部の人口は約870万人だ。
3. インド最大の商業都市であるムンバイの繁栄と隣り合わせてスラム があるという極端さ。
4. [インド人が時々建前論的に持ち出す意見]: 貧しい中にも活き活き感があること。スラムの住人は概ねなんらかの生業を持っておりスラムはその生業(家内工業)の基地である。→ 正直なとこ私はこれは言い訳だと思う。
といった要素もあって話題になることが多いようだ。
しかし、例えば上記の4.の「希望に満ちたスラム」観はその実インドの人口11億人の内約8億人が極貧層であるといった事情から多くのインド人が貧困問題についてある種の諦めを持っているという事実を糊塗する論理である(無論スラムの状況を変えようと懸命に努力しているNGOが多数存在することもまた事実ではあるが)。釈尊が出家を志した理由がカピラヴァスツ城の外で老病死の姿を見たからだとされているが、釈尊の時代から(おそらくはそれ以前から)インドには厳しい生活を余儀なくされた貧しい人々が多数存在していたのである。
貧困の発生にはそれなりに構造的な要因があり、経済成長すれば自然と貧しい人々がいなくなるというほど単純な問題ではない。
構造的な要因とは、貧困が社会構造の中に組み込まれていて、貧しい人々のほとんどがいつまでも「人手によるゴミの分別」といった低付加価値の仕事から、より付加価値の高い仕事に脱却できない状況のことである。
どうしてスラムでもう少し付加価値の高い仕事をして生活水準を向上することができないのだろう?
インドの労働人口の60%が農業に従事している (中国は43%)。農村ではまだ農地改革が貫徹しておらず、小作人やその子弟にはスラムで得られる所得のほうが農村で得られる所得を上回る状況だ。当分の間、口減らしのため農村からはじき出された人々が低付加価値の仕事を続ける労働力の供給源となる素地があるということだ。農地改革をきちんと実施し、農村の所得を増やさないと、当面都会のスラムに向かう人口が減ることはないだろう。
どうしてスラムが増え続けるのだろう?スラムは不法占拠された土地に建設されているが、そこにはSlumlordといわれる家主がいる。数メートル四方の掘っ立て小屋でも家主に家賃を払わねばならない。その家主は地元の政治家に献金をすることでスラムが立ち退かされたりすることを防いでいる。地元の政治家はスラムに選挙区を設定することで安価に自分の地位を安定させられる。スラムをそのままにしておくことのためにいろいろ利権が働いているのである。
米国のForbes誌が公表するWorld’s Billionaires(世界の億万長者) リストの直近版によればインドの億万長者は53人、GNP総額がインドの4.7倍の日本はその半分以下の24人だ!都市部では弱体化してきているとは言ってもインドにはカースト制という身分制度が釈尊以前の時代から健在だ。このような不平等を固定化させるメカニズムの影響も構造要因として考える必要がある。
インドの貧困問題は「様々な構造的な要因があって、一朝一夕では解決できない」ということだけは認識しておく必要があるだろう。
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