原発から代替エネルギーへ ― 2011/06/19 13:12
20年近く前の冬、当時はまだアメリカのド田舎だったアイダホ州に出張することがあった。今のアイダホ州は「ド」がとれて結構景気の良い田舎だ。たまたま搭乗した飛行機に中年の日本人の女性が乗っており、どういうわけか席が隣り合わせになった。聞けば州都ボイジーが目的地ではなくそこで飛行機を乗り換え、更に400キロ離れたアイダホ・フォールズに向かうという(アメリカの西部は人口希薄で距離が長いのだ)。「アイダホ・フォールズに何があるのですか?」と聞くと「原子力研究所があります」とのこと。このブログを書くためにグーグルで調べると、研究所の名前は
Idaho National Laboratoryアイダホ国立研究所と言い、連邦政府エネルギー省傘下の全米有数の原子力研究所だ。アイダホ・フォールズ市の唯一の姉妹都市は茨城県東海村だ。女性は東海村の日本原子力研究所(当時、現日本原子力開発機構)に勤める技師だという。
Idaho National Laboratoryアイダホ国立研究所と言い、連邦政府エネルギー省傘下の全米有数の原子力研究所だ。アイダホ・フォールズ市の唯一の姉妹都市は茨城県東海村だ。女性は東海村の日本原子力研究所(当時、現日本原子力開発機構)に勤める技師だという。
「福島第一・第二原発は廃炉、周辺は立ち入り禁止区域とすべきだ」 を読むと感じられると思うが私は原子力発電には反対だ。当時もそうだった。「申し訳ありませんが私はどうしても原子力発電には賛成しかねるんです」と言うと彼女に「でも原子力は今や日本の電力供給の中でなくてはならない存在になっているんですよ」とていねいに諭された。
1、2年前だったと思う。ヨーロッパにおける排出権取引に関するセミナーに参加した。今をときめくアレバArevaの国フランスからよりは確かイギリスやドイツの講師が多かったと思う。壇上に立つ講師の多くが低炭素社会実現の切り札として原子力が重要であることを力説していた。セミナーの後の懇親会で講師をしていたイギリス人の弁護士に「私は原子力発電にはどうしても反対でねぇ」と話したら他の講師に私のことを「この人原子力に反対なんですってぇ」といって紹介しながら、「まだそんなことを言っているのか?」といった感じで自信を持ってThat position is not widely accepted in Europe now(今のヨーロッパではその考え方は余り支持されない)と言われた。その時点では確実に原子力発電は低炭素社会実現の切り札で、原発反対派は少数派だったのだ。
しかし5月29日ドイツのメルケル首相は「ハイテク工業国日本で起こったことは他人事ではない」とドイツの原子力発電所を2022年までに閉鎖することを決定した。昨年11月にメルケル首相は原子力発電所の運転を2035年まで継続することを発表しているので大転換だ。
大分前座が長くなったが私が原発に反対の理由を書こう。理由は非常に単純に三点にまとめられる。
まず第一に原発の発電コストが高いからだ。
原発の発電コストが一見安いのは、プラントの廃棄コストや廃棄物の処理コストをきちんと算入していないからだ。算入されない理由は廃棄や処理の手順がまだ確定していないからだ。「いやいやきちんと廃棄手順が存在しています」という反論があるかもしれない。しかし、現在主流の放射性廃棄物の廃棄方法はそれをドラム缶に入れて地中に埋めたりか海洋投棄したりすることだ。完全に中和するといったことができないからだ。「特殊なドラム缶だから」といってはいけない。放射能の多くの半減期は「未来永劫の先」なのだ。そんな未来まで多湿の地中でドラム缶がどうなるのか?海水の中で鉄のドラム缶がどうなるのか?放射性廃棄物の廃棄手順ひとつを取ってもこのとおり。現在の廃棄手順にはプラントや廃棄物の本当の廃棄コストが算出不能なために発電コストの減価にキチンと算入されていないとの認識が必要だ。
原発の発電コストが一見安いのは、プラントの廃棄コストや廃棄物の処理コストをきちんと算入していないからだ。算入されない理由は廃棄や処理の手順がまだ確定していないからだ。「いやいやきちんと廃棄手順が存在しています」という反論があるかもしれない。しかし、現在主流の放射性廃棄物の廃棄方法はそれをドラム缶に入れて地中に埋めたりか海洋投棄したりすることだ。完全に中和するといったことができないからだ。「特殊なドラム缶だから」といってはいけない。放射能の多くの半減期は「未来永劫の先」なのだ。そんな未来まで多湿の地中でドラム缶がどうなるのか?海水の中で鉄のドラム缶がどうなるのか?放射性廃棄物の廃棄手順ひとつを取ってもこのとおり。現在の廃棄手順にはプラントや廃棄物の本当の廃棄コストが算出不能なために発電コストの減価にキチンと算入されていないとの認識が必要だ。
次に今回の福島第一原発の一件でわかったように、原発はスイッチを切ったからと言ってスッキリ止まってくれないからだ。
否、止めるという操作を開始しても、制御棒が正しく挿入されたとか、その後冷却が継続できるとか色々な条件が揃わないと原子炉は動き続ける。つまり暴走する。日本の電力会社が深夜電力の利用を積極的に推進していたころ「原発の出力調整が容易でないので、ずっと一定の電力を発電し続ける。そのため夜間に電力が余るので夜間電力の需要促進をする必要がある。」という説明が「何で深夜電力がそんなに日中の電力より安いのか」という消費者の疑問に対する説明として用いられてきたが、これはまさに「スイッチを切ったからといってスッキリ止まってくれない」ことを電力会社自身が認めている証左だ。「色々な条件」に燃料棒を抜いてからもその燃料棒をプールに移し、プールに冷たい水を注ぎ続け冷まし続けないと燃料棒が勝手に発熱をし始める、なんていうこともあるなどということは今回私を含めて初めて知った人が多いのではなかろうか。
最後に原発からの放射能漏れはどうやっても防ぎようがないという点だ。
この問題は最初に指摘したコストの問題ともからんでくる。従い、どこかで「許容できる範囲の漏れ」の線を引かないとならなくなる。しかし漏れるものが放射線で前述のとおり「その半減期が一部を除けば、人間の寿命から言えばほとんど未来永劫だ」ということに着目しなければならない。微量の漏出であってもチリも積もれば山になる。現在設定されている「許容できる」のレベル設定に多分に恣意性を感じるのは私だけだろうか?
そうはいっても、今すぐ日本の原発を全部止めてしまうということはなかなかできない。ボイジーに行く飛行機の中で会った原研の技師のいうように原発は「日本の電力供給の中でなくてはならない存在になっている」からだ。
私は計画的に日本の原発はすべて閉鎖してゆくべきだと思っているが、閉鎖計画立案にあたってはキッチリ代替すべき発電プラントの建設計画や、その発電プラントで利用する技術の開発に関する計画の策定が必要だ。
私は計画的に日本の原発はすべて閉鎖してゆくべきだと思っているが、閉鎖計画立案にあたってはキッチリ代替すべき発電プラントの建設計画や、その発電プラントで利用する技術の開発に関する計画の策定が必要だ。
代替案としては比較的早めに(と言っても決めてから数年かかるが)投入できるのが天然ガス発電だ。ただしこれは低炭素社会実現の方向には反する。従い当面の対策にしかならない。低炭素社会実現には原発のようなエセ代替エネルギーではなく、太陽光発電や風力発電のような真の代替エネルギー開発を志向する必要がある。
しかし日本のように冬があって、雨もよく降る国で太陽光発電は効率が悪い。風力発電も日本のように夏(つまり電気の需要期)に風が凪ぐ地方が多い国ではあまり有効ではない。風が凪ぐ夏の後には風力発電の運転を止めねばならない台風シーズンが到来するからいっそう始末にこまる。
私に考えられる有効な手段は地熱発電と潮力発電だ。波力発電もありうるが、こちらを推進すると、恐らく海岸線のかなり大きな部分を発電設備建設にとられることになるので、景観という視点から言ってあまり勧められない。
このような私の立場からすると、これから日本の為政者に求められるのは
原発開発や原発建設に回す予定にしていた予算は、効果的なプラントと放射性廃棄物の廃棄手段の確定にのみ集中させ、後は石炭、石油、天然ガス発電プラントの効率化、及び地熱、潮力発電技術の開発に集中させるべきだ
ということになる。
追記: 低炭素社会に関する私の考えを書いておく
今現在低炭素社会実現に関する世界的な取り決めは存在しない。それに最も近い存在である京都議定書には、世界第一と第二の温室効果ガス発生国であるアメリカと中国が参加していないという重大な欠陥がある。
アメリカは地球温暖化問題については国論が割れており、今の民主党政権は温室効果ガス発生を抑止することに「前向き」だが、共和党の支持層の多くはそもそも人為的な地球温暖化の存在を認めていないので、アメリカの温室効果ガス抑制に対する取組みはきわめて不安定であるとの認識が必要だ。
中国はこれからどんどん経済成長をしよう(つまりは温室効果ガスを発生させよう)という立場から、先進工業国に対してもっと積極的な温室効果ガス発生抑制を求めるべきとの考えなので、中国を納得させることは至難のわざと考えたほうがよい。
2009年にデンマークの首都コペンハーゲンで国連は京都議定書に代わる温室効果ガスの抑制・削減に関する議定書の締結を目指したが、前述の中国の立場に同調するインドをはじめとする他の発展途上国と、積極的に温室効果ガスの発生抑制を進めようとする日・欧・米間の合意が成立せず、結局法的拘束力のないコペンハーゲン合意Copenhagen Accordができたにとどまっている。つまり現在の世界では温室効果ガス発生抑制に関する包括的な合意が存在していない。
発展途上国の「もっと温室効果ガスが発生しても経済発展を遂げたい。そんなに温室効果ガスが問題ならこれまで温室効果ガスを出し続けて今日を築いた先進工業国が温室効果ガスの発生をもっと積極的に抑えるべきだ」という立場は発展途上国側の主張としては極めて妥当なものだ。
ただし、ひとつ認識しておくべきことは「発展途上国すべてが、否いまBRICSといってもてはやされている国々だけでも今の先進工業国のような生活水準を達成すれば、恐らく地球全土が焦土になるだろう」ということだ。つまり今の地球の環境を維持しようとすれば、
* 先進工業国に住むわれわれが、今の生活のレベルに比して極端なまでにエネルギー消費を抑える覚悟をするか、
* 今の地球上の不公平をある程度固定化するか、
というきわめて難しい選択をしなければならないということだ。
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