パレスチナ問題解決に関する障害 -- Iron Dome補論2014/08/01 07:30

私のパレスチナ問題に対する考えは「Helen Thomas ヘレン・トーマス--アメリカにおける言論の自由の限界」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2010/06/10/5150961
でかなり明らかだと思うが、再説と補足をしておこう。

ユダヤ人がそもそもパレスチナ人の住む地に乗り込んできて、彼らを追放して作ったイスラエルという国の存在自体が、中東における不安定要因を創りだしている。大量の資金を供給してそのイスラエルの存在を担保しているアメリカは中東の不安定を助長する存在だ。

ちなみにアメリカのイスラエルに対する公式の経済援助は2014年で年間約40億ドル近くに達しており、そのほとんどが軍事援助だ(資料:Jeremy M. Sharp, U.S. Foreign Aid to Israel,
Congressional Research Service, 2014)。イスラエル国会が7/29に承認したイスラエルの2014年国家予算の規模が1130億ドルだから("After 15-hour debate, Knesset passes deficit-
busting budget", The Israel Times, July 30, 2013)、イスラエルの国家財政の4%近くがアメリカからの援助で成り立っていることになる。

もっと重要なポイントは前述の通りアメリカの援助のほとんどが軍事援助で、イスラエルの軍事予算は2014年で約117億ドルだという点だ。つまりイスラエルの軍事予算の約1/3はアメリカの資金援助に頼っている。見ようによってはイスラエルによる過去のアラブ諸国に対する戦争や、現在も続くパレスチナに対する戦いはアメリカの財政支援に頼るアメリカの代理戦争だと言われても申し開きのしようがない状態だ。

無論上記は公式の数字をもとにした話であり、非公式の援助や、アメリカのユダヤ人社会の私的な援助も計算に入れれば、「イスラエルはアメリカの51番目の州だ」という見方が十分できる。

これに対するアラブ諸国の状況はふがいない限りだ。イスラエル建国以来イスラエルと戦った戦争にはすべて敗北している。1973年の石油ショックで石油禁輸をしたこと以外、アラブ諸国が団結してこのイスラエルの胴元アメリカに対し有効な対抗手段をとったことはない。この主たる理由は「アラブ諸国に石油や天然ガス以外に大きな輸出商品がなく、継続した石油禁輸は彼ら自身の首を絞めることになるから」だ。このようにアラブ諸国がパレスチナ問題解決に向けた統一した立場の形成ができない状況では「アラブ諸国はパレスチナ問題に対する発言権を失っている」といえる。

1973年当時のアメリカは国内の石油消費の半分までを輸入に頼る世界最大の石油輸入国だった。しかし、アメリカは最近になってシェールガス開発の結果、石油や天然ガスの輸入に頼らなくても良いほど国内の産油量や天然ガスの産出量が増えている。禁輸は日本やNATO諸国のようなアメリカの同盟国を困らせるという効果は有しているが、アメリカのイスラエル政策に直接影響を与える有効な手段ではなくなっている。

上記のような事情から、仲介者としての公平さを疑われる存在であっても、「イスラエルを抑えることができる」という理由で、今やイスラエルとパレスチナの間を唯一仲介できるのはアメリカをおいてない。日本時間の今朝発表された72時間の休戦にしたところでアメリカと国連の仲介の成果だ。

しかしこれまでの停戦にしても、今回の72時間の休戦にしても、アメリカがイスラエルを制御するような影響力を行使するモチベーションになるのは、パレスチナ側の犠牲によって招来されるアメリカ内外の世論のイスラエルに対する非難の声しかない。ということはパレスチナ側は自分たちのおかれた状況に世界の注目を集める為に「なにか」をやってイスラエルの反撃を招き、犠牲者を積み上げ、アメリカ内外の世論がアメリカを動かすのを待つしかない。

このような救いようのないような状況が、現在のパレスチナ問題を取り巻いており、事態の解決を困難にしているのだ。

留意しておかねばならないことは、アメリカがイスラエル援助を止め、或いは極端に削減し、その結果イスラエルのパレスチナに対する行動が消極的になったところで、問題の解決にならないことだ。むしろ、こうなっても、これまで蓄積されたパレスチナ側の不満が一度に解消されるものではないと考えるべきだ。むしろイスラエルの鎮静は「アラブの春」の結果が示すように、これまでイスラエルに対し有効な対抗勢力たりえなかった既存のアラブ諸国の当局者に対する民衆の不満の爆発を誘発し、それが中東全体が不安定化させる可能性が極めて高い。

パレスチナ問題の有効な解決策がなかなか見つからない理由はここにある。

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