こんな風穴なら開けてほしくない--TPPに関する議論で余り注目されていないこと2015/01/27 08:31

ドイツのリベラル系の雑誌SpiegelにTransatlantic Trade and Investment Partnership (TTIP)環大西洋戦略的経済連携協定締結推進に関してヨーロッパで懐疑が深まってるという記事が出ている。

懐疑が深まっている理由は、同協定の紛争解決条項で規定される紛争解決手段としての仲裁に関するものだ。Spiegelの記事のおおよその議論は以下のようになる:

* 仲裁の結果は国の政策や法律に対して拘束力を持つ

* アメリカの企業は問題があるとすぐ「投資家保護」の名目で国を相手の裁判や仲裁に持ち
   込む傾向がある

* 仲裁は3人の仲裁人が非公開で当事者の申し立てを聞き、審判結果も非公開だ

* 仲裁に入ると仲裁なれした弁護士事務所に審理の主導権を奪われ、訴えられた国に不利
      な審判がでる可能性が高い

* 不利な審判が出なくても、仲裁になると訴えられた当事国も高額な弁護士費用を払ってそ
   れなりの体制で審理に臨むことになるので、当事国はアメリカの企業から仲裁を申し立て
   られそうな案件についての立法や政策の実施を躊躇するようになる

* この結果、遺伝子組み換え作物、環境規制など、アメリカ国内の規制が弱い分野で活動
     する企業が「自社の投資家保護」の名目で「ヨーロッパの国内法の規制は恣意的かつ競争
     制限的だ」といって仲裁を要求してくる可能性がある

* 訴訟なれしたアメリカ企業の意向に近い審判が出て来れば、TTIP締結の結果、ヨーロッパ
     各国の国内の規制がアメリカで活動する企業の意思でねじ曲げられるリスクがある

* TTIPの投資家保護条項はこのように国の政策を一企業の投資家保護という名目でねじ曲
      げられる危険な要素を持つ

それ故にSpiegelの記事は「訴訟好きなアメリカの企業」の行動に注意を喚起しているわけだ。

Spiegelの議論を読む際に留意しておくべき点は「仲裁なれした弁護士事務所は別にアメリカだけにあるわけではない」という点だ。現在国際的な弁護士事務所間の大きな連携や統合が進んでおり「TTIPを推進すればアメリカの弁護士事務所にやられる」というとらえ方よりは「TTIPを推進すれば弁護士の活躍の場がふえる」という理解が必要だ。

さて「訴訟なれしていない日本」でこのような面から環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に対して疑問を呈している議論はでているのだろうか。

外務省のTPPに関する説明のサイトでは紛争仲裁に関しては「協定の解釈の不一致等による締約国間の紛争を解決する際の手続きについて定める」と簡単に記載されているだけだ。

もっとも同じ外務省のサイトではTPPで「我が国がこれまでの投資協定・経済連携協定において独立の分野として扱ったことがないのは『環境』、『労働』、『分野横断的事項』の3分野」とも書かれている。

TPPの具体的な交渉内容や条文については秘密交渉に委ねられており、何を具体的にどのように交渉しているのかはWikileaksをみるしかない。英文版WikipediaのTPPに関する記事を見ると紛争解決について"As of 2012, US negotiators were pursuing an investor-state dispute
settlement mechanism, also known as corporate tribunals, which can be used to attack
domestic public interest laws"「2012年現在アメリカの交渉団は相手国内の公益関係法規を取り上げることができるような、投資家と国の間の紛争解決手段、別名企業間紛争審判法廷、を作る方向で交渉をしている」との記述が見える。つまりSpiegelが問題にしているTTIP上の問題が、TPPでも提起されていることがわかる。尚、TPP第15条「紛争解決」の私訳をみると「もしも協議国団が下記の期間内の問題解決に失敗すれば、申立国は、被申立国宛の文書化された通知によって、仲裁裁判所の設置を要請できる」との記述がみえる。

Spiegelの記事によればアメリカとオーストラリアの間の投資協定はオーストラリアの国内政策の優越に配慮した内容になっているようなので「オーストラリアがTPP交渉に参加していればなんとかなる」という見方もできるかもしれない。

いずれにせよ、この問題はもう少し研究し再びこのブログでとりあげることとしたい。

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