野口悠紀雄の近著を読む--日本の進路についての処方箋 (2/2)2010/07/15 23:26

そのような不満を持った私の目には、時々目を通すブログLetter from Yochomachi(題名は英語だが別名「余丁町散人(橋本尚幸)の隠居小屋」という日本語のブログ)
http://www.yochomachi.com/
で紹介されていた3月15日に中国の財新網英文版Caixin onlineに掲載されたAndy Xieという人物によるOur Next Economic Plague: Japan Disease(次の経済の伝染病:日本病)
http://english.caing.com/2010-03-15/100126807.html
という記事が新鮮に映った。なかなか面白い内容だったので英文版の要約を紹介する。尚、友人の住友総合研究所の北村豊君に調べてもらったところ、Andy Xieは謝国忠という人物で、彼の「謝国忠的博客」(謝国忠のブログ)の同日のエントリーに「“日本病”威脅全球」(「日本病」世界を脅かす)というものがあるようだ。

< 名目GDPが1992年レベルを下回っていることから明らかなとおり、日本経済は困難な状況に直面している。仮に経済が老いる状況を日本病と名づけてみよう。日本病の原因にはさまざまな要素がからみあっており簡単な処方箋などない。再生は可能だが、それは現状の破壊を要するので、人はそのような選択をするよりは引退することを選択するだろう。

確かに成熟期にある経済でもイノベーションを通じて一時的に若さを取り戻すことができる。しかしインターネットの時代、情報は容易に拡散するので先行したイノベーションの効果などすぐになくなってしまう。

日本は平均寿命の長期化と若年層の出生率の低下の結果、老齢人口が若年人口と拮抗する事態になっている。労働人口の減少と65歳以上の人口の増加だけで、理論上は経済が年率1%縮小することになるが、老人向け医療費のように非生産的な投資を増やさねばならないし、他方政府支出が税金を払って働いている層に向かないので働く人の労働意欲が失われるという悪い循環に陥るので、現実はもっと厳しい。日本の状況は他の先進諸国にも遅かれ早かれやってくる。社会保障が行き届いている欧州ではその訪れはもっと足早だろう。

このような事態に対処するべく移民を受け入れても、欧州の例を見ればその効果は一時的であることがわかる。中国も20年後には現在の日本の状況に直面するだろうし、インドがこれに直面するのはそのまた20年後だろう。

そのような状況下で、日本は美しく老いる道を探っているようだ。 >

つまり日本の状況は老衰なのだから、症状を緩和できても特効薬などないという議論だ。

実はこれに類した論説は最近の海外の報道に散見される。代表的なのはFinancial Timesの前東京支局長のDavid Pillingによる6月9日付の’Just do it!’ is no mantra for Japan(「やれば出来るはずだ」では日本にとっての解決にはならない)という記事で、この記事の内容は「日本はこれまでいろいろなことを試してきているが、それをみても日本の問題に対する処方箋が簡単なものであると思うべきではない」というものだ。

過去私は、リチャード・クーのバランスシート不況論なども参考にして[註 1]、生産性が向上するような方向での政府支出の継続を主張したが[註 2]、確かにあれこれ工夫して生産性が高くなるよう政府支出を傾斜させてみたところで、今の世の中ならその効果もまた何年かすれば薄れてくるというのは説得力のある議論だ。「効果がすぐ薄れる」ということは下手をすると前の支出の効果が現れる前に次の生産性向上刺激策を講じなければならないということでもある。つまり政府の負債を積み上げてもその効果(=経済成長)が出ないうちに効果が薄れてくる可能性は十分存在するのだ。

「負け犬の考え方だ」との批判があろうとは思うが、存外、末期がん患者に対する緩和ケアのように、高齢化し変化について行きづらくなってゆく国民に対して経済変動によるショックを緩和する政策手段を継続的に提供するほうが、今の日本の状況に対して経済合理性にかなった対応なのかもしれない。

[註 1]  ちなみに6月7日にクーが発表した「野村証券マンデー・ミーティング・メモ」第546号をみると、クーはこれまで公共投資については「穴を掘って埋め戻すようなことでもよい」という立場だったのが、「今は公共事業の中身が日本経済の将来を大きく左右する局面」という立場に転換している。

[註 2] 「内需を増やせ(1/2)、(2/2)」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2009/03/09/4161328
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2009/03/13/4174619

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