日本の女性の社会進出2009/03/10 20:25

米国では’60年代後半のベトナム反戦運動の高まりに触発されるような形でWomen’s Lib(女性解放運動と訳されている)が発生し、一部では黒人の地位向上運動と連携する形で女性の地位向上に対し積極的に動き始めた。もっとも米国の女性の地位向上運動は’60年代になって突如発生したわけではない。米国女性の地位向上運動には19世紀の婦人参政権運動以来の歴史があり、’60年代のWomen’s Lib運動もその地位向上運動の伝統の中から発生したものと考えるべきであろう。

’60年代のWomen’s Lib運動がそれまでの女性の地位向上運動と異なる特徴的な部分は、士官学校を始めとする男子のみの大学への女性の受け入れ要求に象徴されるように、男性と同等の権利を女性に対しても認めさせることに法的な強制力を持たせるような方向性を持っていたことと、数値的にポジションの割り当てを指向した点である。この結果連邦や州レベルで「女性を最低xx%雇用すること」といった法律が立法されることとなった。このような一連の動きのことをaffirmative actionという。Affirmative actionのことを日本では差別是正措置などと訳している。

Affirmative actionの功罪は種々議論されており、結論は永遠に出ないだろう。ただ、部外者としてみていると、米国の社会ではaffirmative actionの結果相当数の女性が社会の第一線に現れており、その肯定的な側面として個人を性別や人種に基づかずに評価する文化がある程度定着してきていることがあげうる。

ヨーロッパは米国ほど声高にaffirmative actionを推進しているわけではないが、結果としては女性の社会進出は日本よりは進んでいる。こちらの動きの背景については別途考えてみたい。

日本のaffirmative actionは伝統的には日本の固有の歴史的な状況から発生している日本人相互間の差別の解消をめざす政策であって、性的、人種的或いは民族的な差別に対して「政策的に採用枠を固定する」と言った形で国として対応したのはごく最近の、欧米の動きや「国の体面を保つため」女性差別撤廃条約に調印するために触発された現象である。日本の雇用機会均等法が欧米に近い水準で差別撤廃やaffirmative actionを制定したのが1997年のことであるから、日本が欧米型のaffirmative actionを試みたのはここ数年のことなのである。

10数年位前になろうか。ある会社の人事担当の重役と雑談をしていた時。重役氏の会社でなかなか女性総合職の定着が進まないことに話が及び「実は同業他社でも状況は同じで、人事担当役員どうしでどうしたものか悩んでいる」と言う話がでた。当の会社は当時年間数人(採用の数パーセント)程度しか女性総合職を採用していない。確かに年間数人程度の女性総合職を「対面を保てる程度に採用することでしのぐ」のが最も経済合理性にマッチした採用政策であろう。しかし、そんな一握りの女性を採用したのでは会社のカルチャーなど全く変わらない。先刻の重役氏の会社で女性を毎年数パーセントではなく、継続的に数十パーセント採用したらどうなるであろう?その会社でそういうオーダーでの採用が始まったのは今世紀に入ってからだ。カルチャーの変わるのには更に10年以上の歳月を要するだろう。

しかし、affirmative actionの有無だけで女性の社会進出を語るべきではないような気がする。1976~78年に米国のビジネススクールに留学していた時、中国系の留学生(当時は中国からの留学生はいなかったので華僑系+台湾)、の中には多数の女子がいたのに対し、日本の留学生の中には女性は皆無であった(その後女性の留学生が増えてきたことは事実だ)。又ビジネススクールに入学する中国系米人と日系米人とを比べてみても、中国系の方には相当数の女子がいたのに、日系の方はこれまた女子が非常に少ない状況であった。私と同世代の中国系の中からは、移民一世であるにもかかわらずブッシュ・ジュニア政権で労働大臣にまでのぼりつめたElaine Chaoも輩出している。

ビジネススクール在学中に、日系の女子がいないことが話題になった際、中国系一世の学生が「そういえば自分が行っていたカリフォルニアの高校には結構優秀な日系の女子がたくさんいたけれども、彼女たちの卒業後の話はきかない」といったことがある。

となってくると、日本の女子の社会進出が遅れているのは、組織とか行政とかいった問題だけではなく、日本の社会とか文化といった問題もあるのではないかと言う気がする。

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