Counterparty Risk (契約相手方のリスク)2009/03/27 20:28

Counterparty Risk (契約相手方にとってのリスク)

最近英字の経済紙・誌を読むとこの言葉によく遭遇する。言葉の意味するところを最近のニュースに沿って説明しよう。

 

2007年

 

2000年前後に破綻した東邦生命や千代田生命を買収したり、破綻しそうになった富士火災海上の大株主となったアメリカの保険会社AIG。いつの間にかAIG Financial Products (AIGFP)という部門で複雑な金融商品を組み立てたりそれの売買やらに手を出し始め、2007年末にはAIGの保有するサブプライム抵当証券関連の金融商品の残高が610億ドルに達していた。

 

2008年

 

これら金融商品の発行条件には価格が低下したら追証を支払うことが契約で決められており、サブプライム抵当証券の価格が低下するとともにAIGが金融商品の契約相手方(counterparty)に対して追証を支払わねばならない事態がどんどん発生し、昨年7月頃から追証の支払いがかさみ大欠損が懸念される事態となった。7/15にAIGのCEOが交代。

 

事態は更に悪化し昨年9月に入ると欠損の規模がAIG全体の資本を毀損させる事態となり株価が1桁台まで暴落。契約相手方に対する追証の支払いができないとAIGが債務不履行で破産請求される可能性が発生する。更に一歩進んでAIGが破産すると契約相手方に対して追証のみならず金融商品そのものの換金ができない事態が発生する。つまり契約相手方がリスク(counterparty risk)をとった結果が凶と出た事態だ。AIGの支払い不履行が連鎖し金融恐慌が発生することを恐れたアメリカ政府は9/16、ニューヨーク連銀(当時の総裁はガイトナー現財務長官)経由AIGに対し同社株式79.9%を担保として期間2年LIBOR+8.5%という高金利で850億ドルの緊急融資を実施し、AIGのCEOも再度交代させた。

 

本稿のテーマとは直接関係ないが、このところ新聞紙上をにぎわせているAIGのボーナス問題は、政府の緊急融資で実質政府直轄となっているAIGが、既存の雇用契約に基づき本年3月に従来ベースのボーナスをAIGFP関係者に支払おうとしていたため発生したものだ。

 

契約相手方の正体

 

それではこの政府資金が回ったおかげでリスクを負わず満額回収できた契約相手方とは誰か?アメリカ政府の管理下に入ってからのAIGの契約相手方に対する支払の明細を本年3/15にAIGが発表しているので、これをもとに契約相手方上位十傑と彼らの受取額をまとめてみた。

 

銀行名(国名)

支払総額

Societe Generale(仏)

110

Goldman Sachs(米)

81

Deutsche Bank(独)

54

Merrill Lynch(米)

49

UBS(スイス)

33

Calyon(仏)

23

DZ Bank(独)

17

Barclays(英)

15

Wachovia(米)

15

Bank of Montreal(加)

11

(単位 億米ドル)

 

ちょっと脱線するがAIGのリストには日本の金融機関はひとつも出てこない。これを「健全なリスク判断を行いうまく逃げた」と読むか「国際金融の世界で日本の金融機関はお呼びじゃなかった」と読むか判断に苦しむところだ。

 

話を戻そう。この話、AIGの契約相手方にとってうますぎはしないだろうか?上記の表の各行とも財務諸表が手に入るので、契約相手方の受け取り金額と、公表された一番新しい財務諸表から見る各行の純損益(皆さん結構欠損を出しているのだ)と純資産を表にしてみた。

 

銀行名(国)

支払

総額

直近期

 

純利益

純資産

支払÷

純資産

Societe Generale(仏)

110

2008.12.31

39

576

19%

Goldman Sachs(米)

81

2008.11.30

23

646

13%

Deutsche Bank(独)

54

2008.12.31

-55

450

12%

Merrill Lynch(米)

49

2008.12.26

-276

200

24%

UBS(スイス)

33

2008.12.31

-192

386

9%

Calyon(仏)

23

2007.12.31

-9

157

15%

DZ Bank(独)

17

2007.12.31

13

162

10%

Barclays(英)

15

2008.12.31

77

686

2%

Wachovia(米)

15

2007.12.31

63

706

2%

Bank of Montreal(加)

11

2008.10.31

16

148

7%

(単位 億米ドル)

 

バークレーズ、ワコヴィア、モントリオール以外は各行とも政府管理下に入ったAIGから当期純利益を大幅に超える金額をちゃっかり頂戴していることがわかる。皆さんこのお金が入らなくても純資産が欠損するところまでは行っていない、つまりは「しのげた」こともわかる。無論AIGの不払いを起点として連鎖的に不払いがおきれば結構ハラハラする局面も出てきたと思うが、その場合でも「回収できるお金が全滅」とは限らないので、一概に「AIGが支払わなければ世界の金融市場が破綻する」状態だったと断じることはできない。

 

さてここで思い出してみてほしい。AIGが買収した東邦生命や千代田生命が破綻した際、個人年金保険の例で言えば年金が半額くらいになった人も多々あった。これは大手の契約相手方と個人が契約相手方である場合のこの待遇の差!それとも日本政府の消費者に対する冷淡さの現れ?

 

いずれにしても今回の金融危機の対応においてアメリカの金融当局の対応がどうも生ぬるいという感じがするが、こういうところでも実感できる。

 

これからどうなる?

 

しかしそもそも金利LIBOR+8.5%というのはかなりのハードルだ。これだけの金利を払っても2年程度でAIGが復帰するだろうということにかけた破綻処理だが、事業を売却するといったリストラ策も現下の世界の経済情勢では好条件では進みにくいだろう。無事AIGが健康体に戻ってくれないと緊急融資が不良債権化し、その不良債権を償却すればAIG破綻のコストはアメリカ国民全体が負担することになる。はたして契約相手方のリスクを究極的には国民全体に負わせるのがアメリカ人好みのフェアな選択だったのだろうか?

 

この点にようやく気がついたのか、このところのアメリカでの議論はようやくボーナス問題からこの本質的な「はたしてAIGの破綻回避が正解だったのか?」という点に向かい始めている。

 

翻って日本。破綻した保険会社再生の陰には契約相手方である保険契約者を泣かせ彼らに負担させたリスクがあったことを忘れてはならない。日本の経済がバブルから復帰してくる過程の経済成長で消費がついて行けなかった一因をここに求めることに無理はなかろう。

 

一義的に消費者に契約相手方のリスクを押しつけた日本と、一義的に政府の資本注入を通じ契約相手方のリスクを政府が負ったアメリカと、どちらの対処法が正解であったのかは歴史が示してくれるだろうが、いずれにせよオバマ政権の経済政策の推移からは当分目が離せない。

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