スリランカ政府の戦勝に当たって2009/05/20 21:28

5月19日にスリランカのラジャパクサ大統領が国会で定例国会の開会宣言とあわせLTTEに対する戦勝記念演説を行った。大統領のウェブサイトに出ている演説の英訳をみると、はじめのほうにタミル語で

この国は我々の母国だ。われわれは一人の母の子供として生きゆかねばならない。この国では民族、カースト、宗教による差別は存在してはならない。[中略] この国に住むすべての人々は安全に、恐れや疑いを持たずに生きる権利をもっている。我々は皆同じ権利を持って生きなければならない。それを実現するのが私の目標だ。ともにこの国を再建しよう。

とタミル民族に語りかけている(ちなみに、シンハラ語とタミル語は類似性があると言っても日本語と韓国語くらい異なる言語だ。ラジャパクサ大統領くらいの階層の人の場合、家にタミル人の使用人がいたりするので多少のタミル語が話せるケースが多い)。「ひとつのスリランカ」を標榜するこの言葉が「歴史上スリランカ島の北部で独自の歴史と文化を維持してきた」と考えるタミル人の心をとらえるには、シンハラ人側に相当「譲る」覚悟が必要だ。

しかし後段のシンハラ語で語った部分では、昔日のシンハラ人の王の名を上げ、南インドからスリランカ北部に進出し王国を打ち立てたタミル人の王は単なる侵略者と片付け、もはやスリランカを分かつものは民族ではなく愛国者と非愛国者の差しかいないと説き、国の再建にはスリランカ独自の考えで当たること、その際仏教の教えのMettha (寛容) 、Karuna (慈悲)、 Muditha (他愛) and Upeksha (平常心)をもってすると語っている。

ここには「スリランカ全島は一つ(それも仏教文化にもとづいて)」とのシンハラ人の感覚は存在していても、独自の文化を維持してきたタミル人に対する配慮は感じられない。

今、戦地を離脱した30万人からのタミルは有刺鉄線で囲まれた避難キャンプに軍の監視下で収容されている。スリランカ政府がLTTEの抱え込んでいた人の数を過小評価していたため、キャンプの収容能力が決定的に不足で、キャンプ内の環境は決して満足なものではない。避難してきた人々にしてみれば、毎日砲声にさらされることなく生活できるだけでも当面はよいだろう。しかし当面は永遠ではない。有刺鉄線で囲まれた避難キャンプの中からは、そして絶えずゲリラ探しのための「尋問」のために人が軍に連れ去られる環境の中からは「スリランカは一つ」の感情は生まれない。

ラジャパクサ大統領の演説が単なる政治ショーで終わらないためには、そして「ひとつのスリランカ」に取り残されたタミル人の反乱が再来しないためには、大統領にスリランカの国家仏教の感情を超える少数民族宥和政策を打ち出してゆく覚悟が必要だ。大統領に戦勝による求心力がある今を除いてその様な政策を打ち出すタイミングはない。

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