多様性について (1/2)2011/05/14 14:25

このブログを読んでいる人なら、私が多様性について「それが基本的には善だ」と考えていることに気づかれていると思う。理由は日本の歴史を見ていると、多様性を受け入れている時代こそが、あれこれ混乱はあっても日本が成長していた時代だからだ。考えてほしい、日本の歴史の中で日本にダイナミズムがあって「光っていた」時代というとどんな時代だったのかを。

それは安土桃山時代のように「ヨーロッパとの接触」を一つの触媒として日本が再度統一国家としての態をなした時代だし、明治期のように「欧米との接触」という刺激を得て日本が曲がりなりにも近代国家として歩み始めた時期だし、第二次世界大戦敗戦から高度経済成長に至る時期のように「アメリカの関与」を通じて日本が戦前の政治経済の体制を組み替えて今日の基礎を築いた時期だ。いずれも共通項は「外国との接触から得られる刺激」なのは一目瞭然だろう。

「光っていた時代」の後にはその時期に受けた刺激を内在化させる時代が来る。江戸時代や、大正から第二次世界大戦敗戦までの昭和や、高度経済成長が行き詰まってから今日に至るまでの時期はこの「内在化させる時代」だったと考えてもよかろう。「内在化させる時代」は最初のうちは「光っていた時代」で得たものや行き過ぎを調整し、それらを日本の社会に合致したものに修正してゆく時期だ。しかし修正や調整をやっているうちに、考え方や物事への処し方はどうしても自分たちどうしに都合のよい状態で固まって行く。江戸時代が華と言われた元禄時代をピークに徐々に停滞に陥っていって、ペリーの浦賀来航の頃にはにっちもさっちも行かなくなっていたのが好例だ。

戦後アメリカの占領統治というショック療法を受け、ジョン・ダワーの名著の題名を借りれば「敗北を抱きしめて」(1999年刊、原著John W. Dower, Embracing Defeat)、その経験を内在化させながら「日本人みんなで頑張ってきた」のが高度成長期までで、「そのピーク時の成功体験に引きずられるまま今日に至っている」というのが今の日本であろう。

今の日本を形作ってきた成功体験の主要な要素は、この「日本人みんなでやってきた」部分だ。日本人どうしなので同じ言葉を始め共通項が多い。以心伝心のような「テレパシー」もきく。そうやって仲間の力を結集してやってきた。しかし我々は、今やその「日本人みんな」の努力や叡智だけでは越えられない状況に立ち至っていることに気づく必要がある。その予兆はもう見えていた。
1990年代を通じてバブル崩壊が起き、それに対処するため英米流の企業統治や、事業の査定やそれをもとにした企業や事業の売却・再編が実施されたとき、我々はバブルの傷は「日本の叡智」だけでは越えられないところにまで事態が及んでいることを知ったはずだ。「技術」でならしていた日産自動車が過大な投資のせいで過大な債務を背負い込み1993年にフランスのルノーから派遣されたカルロス・ゴーンのもとで事業の建て直しをおこなったことで、我々は外国人の叡智を直接日本の大企業の経営に持ち込んで、日本の大企業の建て直しに利用することの有効性を知った。

しかし成功体験の呪縛は強い。我々は「事業再編はバブルでバランスシートを痛めた企業の緊急避難措置だ」と、物事を矮小化して考えているのではなかろうか?「日産の例は特別だ」と考えていないだろうか?

外国の知恵を持ち込んだり外国人を登用することが、調子が悪くなった企業を建て直すための応急措置だと思ってはいけない。福島第一原発事故に遭遇した東京電力や、2010会計年度第4四半期(2011年1~3月)の利益が対前年比77.4%ダウンを記録したトヨタ自動車のように、バブル崩壊過程でうまくやってきた企業が今つまずいている。

東電のことはあちこちで書かれているのでここではふれない。トヨタについて書こう。下表のとおり日本の三大自動車メーカーが発表した2011年3月期の業績をみると対前年比で利益の伸びが一番少なかったのはトヨタだ。なかんずく、2011年1~3月で対前年比77.4%減と一番ひどく利益が減少したのもトヨタであることがわかる。東日本大震災は3月11日に起こったのだから、この期の業績の悪化をすべて震災のせいにするのには無理がある。このところさえない車ばかり発表しているトヨタの経営陣は通年の利益増に新聞の目を向かせるよりはむしろ直近の自社の惨憺たる業績に注目して自社の制度疲労を疑った方がよい。
トヨタ本田ホンダ日産ニッサン
20102011増減ゾウゲンリツ20102011増減ゾウゲンリツ20102011増減ゾウゲンリツ
4Q営業エイギョウ利益リエキ95346148.4%96146248.1%827886107.1%
当期トウキ純利益ジュンリエキ1,12225422.6%72244661.8%▲ 116308 
通年ツウネン営業エイギョウ利益リエキ1,4754,682317.4%3,8385,698148.5%3,1165,375172.5%
当期トウキ純利益ジュンリエキ2,0944,081194.9%2,6845,341199.0%4243,192752.8%
単位タンイ億円オクエン

トヨタや、東電だけではない。日本全体が制度疲労を起こしていると考えた方がよい。日本が再度浮上するためには、外国人を大胆に日本の社会の各層に取り込み、刺激を与える必要がある。そしてそれを起爆剤として我々自身が変わる必要がある。

制度疲労からの立ち直りは容易な作業ではない。何年もかかる作業を地道にこなしてゆかねばならない。処方箋は「小国日本の歩むべき道」や「故森嶋通夫の著作を読む-『小国日本の歩むべき道』再論(2/2)」で書いた。あとは実践だけだ。




水のなるほどクイズ2010