選択と集中2009/08/09 08:57

ほとんど破産寸前の企業がある。創業者の長男である現社長はワンマンでまわりを子飼いで固めている。社員は皆タコ部屋に居住している。社内には「保全部」という社長直属の組織があり、社長に歯向かおうとか、会社を辞めようとか言う従業員は保全部員が暴力で押さえつける。会社を抜けるのは命がけの夜逃げしかない。

社長は何としてでも安心立命し子供に事業を継がせたい。しかし「他社との差別化ができる商品」なんてものをつくっているわけでもないので、売り上げがたたず、資金繰りも悪いので偽札や偽タバコや覚醒剤をこっそり作ってしのいでいる。このままでは安心立命はおろか円滑な事業継承など到底おぼつかない。当面資金繰りがつけば何とか回るのだが、資金繰りをよくするにはメーンバンクからの融資が必要だ。

当然のことだがメーンバンクはお荷物になっているこんな会社の融資には応じてくれない。そればかりか「これ以上オタクの資金需要に対応するには協調融資をする必要がある」とかいってシンジケート団(シ団)を組成して融資の話はシ団にふってしまった。シ団と融資交渉をしてもシ団内部の意見がナカナカまとまらないのでラチが明かない。しょうがないのでメーンバンクの関心を引こうと知人の右翼に頼んでメーンバンク前に街宣車を走らせて見たが、メーンバンクの役員が「だだっこみたいだ」といった以外の反応がない。たまりかねてメーンバンクの少しトロイ元役員が社長をやっている広告会社の社員を「新商品を発表するので」と釣って、ノコノコ会社に来たところを「企業秘密を盗みに来たと」いって監禁した。

中国系アメリカ人のLaura Ling と韓国系アメリカ人のEuna Lee両記者が中朝国境で北朝鮮側に捕縛され、北朝鮮における裁判で12年間の労働強化刑を宣告されるまでの経緯を、北朝鮮を会社に見立てた寓話で解説するとこんなことになる。二人の捕縛の過程の報道を読む限り、二人は中朝国境で北朝鮮側の工作にハメられてつかまった、つまりは実質的に拉致被害にあったといって差し支えない。

今回の解放劇は、ミサイルを打っても「だだっこみたい」程度の反応しか出てこなかったアメリカから、捕縛した二人の記者の解放をネタにして、北朝鮮がヒラリー・クリントン現国務長官の夫であるクリントン元大統領との会談をとりつけたという構図だ。

先の寓話に即して解説すれば「結局メーンバンクの前社長が間に入ってとりなして広告会社の社員は無事解放された」ということになる。

来朝したクリントン元大統領とサシで3時間もしゃべったと言うのだから、「将軍様」の頭の中の費用対効果は効果が費用を大きく上回って大成功というところだろう。

しかしこんなメチャクチャを野放しにしておいてよいのだろうか?

更に北朝鮮を企業に見立てた話をしよう。

「選択と集中」とは企業が自分のcore competence(コア・コンピテンス、基本的な強み)を認識し、取組み対象となるさまざまな案件の中からcore competenceのある分野に経営資源を注ぐことだ。ここ10年近くアメリカ発の経営学で推奨されている企業行動である。

「将軍様」の行動をこの「選択と集中」の視点から見てみると納得が行く。

北朝鮮にまだ南北朝鮮統一に資源を割く余裕があった時期、経営資源を戦争(朝鮮戦争)や韓国に対するテロ(ビルマのアウンサン廟爆破、大韓航空機爆破事件等)に注いだりした。しかしそんな余裕もなくなってきたので当面集中するのはサバイバルだ。

サバイバルの第一歩は38度線で対峙する世界最強国のアメリカに自分の言い分を直に訴えることだ(と将軍様が判断した)。それを実現するため、拉致して裁判にかけて労働強化刑を宣告しておきながら、強制収容所送りではなく招待所で軟禁しておいた二人の記者に「クリントン元大統領が来ないと私たちは助からない」と7月頃に家族に対する電話で伝えさせた。

考えましたねぇ。

社会にはおのずとルールがあるので、前の寓話で紹介したような企業は一昔前ならいざ知らず、今はほぼ存在できない。国際社会にも企業を取り巻く法制に比べればゆるいがおのずとルールがある。Failed stateなら国の体制が崩壊しているので国際社会のルールを守れない言い訳が立つが、北朝鮮はfailed stateではない。将軍様の統制がガチガチに行き届いた全体主義国家だ。ルールを踏みにじるのは国の意思だ。そんな国際社会のルールにおかまいなしな国のことをrogue state(ならず者国家)という。

北朝鮮のcore competenceはと言えば、将軍様が「やれ」といったことはおかまいなしに何でも実現してしまう将軍様の意向次第で自在に動く国家体制だ。

将軍様が存在する限り、そして金一家が北朝鮮を牛耳っている限り、北朝鮮がそのサバイバルのため常識では考えられない行動に打って出るリスクは覚悟しなければならない。今のままの北朝鮮は世界の不安定要因だ。我々はそのような政権が至近距離に存在していることを片時も忘れてはならない。

ジョージ・W・ブッシュ政権時代、アメリカはその外交政策にaxis of evil(悪の枢軸)とかrogue states(ならず者国家)とかdecapitate(斬首)と言った派手な表現を用い、国際社会の取決めを無視するunilateralismに走った。その過程で中東における不安定要素であるイラクのサッダム・ホセイン政権と、世界にイスラム原理主義テロを撒き散らすアフガニスタンのタリバン政権を倒した。私は原則としてアメリカのunilateralismに賛同するものではない。ガキ大将による秩序の維持は所詮ガキ大将の都合によってのみ維持される秩序であって、公正さに欠けるからだ。

しかし中東を知る者として、有数の石油資源を持ちそれを使って中東の盟主たらんとする野心満々のサッダム・ホセインと、国全体をイスラム過激派を増殖する基地にしていたタリバン政権とは、この地域の不安定要因であり、そのお取りつぶしは必須だったと思う。従い私はアメリカが選択した「サッダム政権とタリバン政権を粉砕する」という道自体は、介入時期や戦後処理の方法についてより深い詳細な検討の後行動を起こすべきであったとは思うが、正しかったと思う。

北朝鮮は常識で取組める相手ではない。日本の、いや世界の外交は、北朝鮮の体制変換を実現するという政策を選択し、そこに行動を集中をさせるべきなのではなかろうか?

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