スリランカのタミル人難民の状況について2009/07/27 22:37

[この記事を読む前に、この問題について書いた以下の記事をあらかじめ読んでおいていただければ幸甚です]

スリランカのこれから
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2009/04/22/4259902
スリランカ政府の戦勝に当たって
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2009/05/20/4314398



スリランカ北部のタミル人難民キャンプに一時避難している人たちを、彼らの元の居住地に戻すresettlement(復帰作業)が遅々として進んでいない。最近の報道によればラジャパクサ大統領は遅れに対して

<難民の中に隠れているLTTE関係者の峻別作業に注意を要するからだが、年内には復帰作業が完了する>

と説明している。

これを読んでいると、先般のイギリス出張で出席したある国際的な会合で出会ったスリランカ政府高官(シンハラ人)氏との会話を思い出した。会合が一段落した際の懇談会でお互いビールやつまみを片手にしながらの会話だ。彼の名刺を見ると勤務先はタミル人のスリランカ社会復帰に関係する立場にあるようだ。

高官氏からひとしきりLTTE支配地域におけるタミル人の社会復帰のシステムについて説明があってからの会話:

私: LTTE支配地域から出てきたタミル人のうちで、戦闘員と非戦闘員をどうやって峻別するのですか?(これは「避難民が難民キャンプにたどり着くと一部の避難民が問答無用で別のキャンプに連れ去られ行方が知れなくなる」という欧米の人道援助機関の批判を意識した質問)

高官氏: 我々にはシステムがあります。避難民をLTTEトップ層、Middle level(中間層)、Footsoldiers(歩兵レベル)、General public(一般市民)に峻別し、トップ層は法的措置の対象となり、中間層と歩兵レベルは別なキャンプに送ってdebriefing(情報聴取)のうえreeducation(再教育)を施します。

私: しかしトップ層は今回の戦闘ですべて死亡しているのではないですか。

高官氏: 確かにそのとおりです、マレーシアに逃げている1名を除いて。

私: どうやって中間層や歩兵レベルを峻別するのですか?

高官氏: 既に捕まっているLTTEの戦闘員がいます。彼らから同志の名前を聞いており、それに基づいて避難民の中からピックアップするのです(タミル人には姓がない。また名前は神様の名前を使っているので同じ名前になりやすい。同名の人物の場合は良い迷惑だ。大体人は拷問を受けたりすれば、親兄弟でも名指しにすることが多い)。

私: 一定のシステムに基づいて戦闘員を峻別していることはわかりました。ただ、社会復帰は大変な作業ですね。

高官氏: まったくそのとおりです。しかし私はthe victor has to be humble(勝者は謙虚でならなければならない)と考えています。集会などで発言する機会があるときはその趣旨の話をしています[ここで高官氏はパーリ語仏典の一説を暗誦した。「すべての相手に対して慈悲の心を持ってあたれ」と言う趣旨の内容だそうだ。教育のあるスリランカの仏教徒はこのようにサッとパーリ語仏典からお経の言葉を引用できる]。

私: それは同じ仏教徒としてまったく同感なのですが、スリランカ仏教界はそのような考えを持っていないのではないでしょうか。

高官氏: まったくそのとおりで困ったものです。仏陀は寛容や慈悲を教えているのですが、タミル人に対しては仏教界の長老からはまったく寛容とか慈悲とかいった声が聞こえてきません。どうしてそうなのか私にもわかりかねます。

私: 教育のない人たちは仏僧の説法を聞いて動かされるでしょうね。

高官氏: そのとおりなのです。

タミル人避難民に関する会話はこれ以上続かなかった。

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