Ambani(アンバニ)一族物語 (2/2)2009/08/16 07:23

リライアンスの事業の兄弟間での分割話のポイントは、リライアンスが元来合繊事業を中核に上流や下流に展開していった企業グループだという点だ。ムケシュが製造業系、アニルがサービス業系といっても、アニルの電力事業などはムケシュの天然ガス事業からの原料供給を前提に出来上がっている。この点を覚えておこう。

アンバニ兄弟間の争い第二幕はここ数ヶ月インド人の間の噂話の種だ。

話を10年近く戻そう。インドの政府機関(当時、現在は上場企業)であるOil and Natural Gas Commission (ONGC)はインド東岸のKrishna Godavari Basin (K G Basin) といわれる地区で天然ガスを掘り当てた。ガス田の開発資金が不足していたため、政府はガス田の地区割を行い、地区ごとに開発権を入札にかけた。その後の調査の結果K G Basinは世界でも有数の埋蔵量を持つ有望ガス田であることが判明している。リライアンスはいくつかの地区の開発権を落札したが、2002年にディルバイ6(D6)といわれる鉱区でガスを掘り当てた。

[以下の記述は報道などに基づいて書いており、直接インドの裁判記録に当たっているわけではないので、細目について誤りがあるかもしれない]

2005年の事業分割の際、兄弟間では、

<アニル傘下のReliance Natural Resources Limited (RNEL)は、ムケシュ傘下のRILが生産するD6ガス田の天然ガスのうち2800万立米までを百万BTU当り2.34米ドルで引取る権利がある>

という覚書を結んでいた。更にこの覚書によればRILが新規に開発するガス田の40%までに対してアニル側が引取ることができるという。

この$2.34/百万BTUという価格はインドの政府企業であるNational Thermal Power Corporation(NTPC、国家火力発電公社)が2004年に天然ガスの入札を行った際に決まった価格だ。独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のウェブサイトに出ている統計によれば2004年の日本の平均買値が$5.18/百万BTUだ。発電能力30,644MWと中部電力や関西電力級しかないNTPCはずいぶん買い物上手だということになる。どうしてこういうことになるんでしょうね。

$2.34/百万BTUというと2002年頃のアメリカの国内価格で、それ以降は一貫してもっと高い値段をつけている。天然ガス価格は、直近では2008年に$13台まで暴騰してから$3台まで落ちてきている。今後世界経済が復興すると読めば「今が底値」という見方もできよう。

ムケシュ傘下のRILはKG Basinの他地域にも権益を有しているのでまだまだガスが出てくる可能性は高い。一方アニル傘下のReliance Powerは2018年までに32,000MWの発電設備を持とうという。8、9年で中部電力とか関西電力級の電力会社になろうということで、アニルの野望の大きさがわかろうというものだ。発電事業を持つ側にしてみれば安いガスが安定的に得られるならのどから手が出るほどほしいところだ。

この問題に対してインド政府は「そもそもエネルギーの価格設定は政府所管である」という立場から、兄弟間の覚書の内容はともかく、個別の会社間でのガス供給であれば妥当な価格は$4.20/百万BTUであるとしており、ムケシュは「政府がそういうのだから」という立場だ。

兄弟は問題の決着を法廷にゆだねており(すぐ裁判沙汰になるあたりインドと中国とではやり方が根本的に異なる)、ムンバイのBombay High Court(ボンベイ高等裁判所)はアニル側の言い分を認めた。つまり覚書どおりRILは$2.34/百万BTUでガスをアニル側のRNEL に売らねばならないという立場だ。

この問題でインド政府は二つの問題を抱えている

1. そもそも2006年にこの覚書の内容の開示を受けているのに、今の今まで「政府のエネルギー政策から言ってRIL/RNRL間のガス価格は$4.20/百万BTUが妥当」という立場を明確にしてこなかったこと。「インドの民主主義」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2009/04/01/4219988
で書いたようにインドでは政権交代がある。「これは前政権が行ったので…」という言い訳はインドの政治家がよく使う手だ。しかしこの時期は一貫してINC(インド国民会議党)が政権を握っているので今回はそのような言い訳は使えない。

2. 政府は過去、政府に支払われるロイヤリティーについては云々するが、私人間のガスの価格については関与する意思がないことを表明している。つまりRIL/RNRL間のガス価格がどうであろうと、RILが政府に支払うロイヤリティーが変わらない限り政府は関与しないことを表明しているわけだ。政府が「RIL/RNRL間のガス価格は$4.20/百万BTU」という立場をとっているということは、政府が「RILがガスを$2.34/百万BTUで売れば、ロイヤリティーの支払義務者であるRILの儲けが少なくなるので問題だ」とRILに肩入れしていることになる。

ムケシュ側のRILは控訴しており問題は今最高裁判所で争われている。今後の展開やいかに?

ムケシュもアニルも父親のディルバイが苦労してリライアンスを育ててきた過程をともにしている個性の強い人物だ。お互い「自分の言うことがインドのためになる」と主張してやまない。ダウンストリームにいるアニルのほうが声高にそれを主張しており、アップストリームの兄のムケシュは「問題を司法の手にゆだねているのでコメントする立場にないが、一言言っておけば」という状態だが。

このエントリーを読んでいて、インド最大の企業とか、大規模な電力会社とかいったものをムケシュ・アンバニとかアニル・アンバニといった個人がコントロールしているような書き方をしている。事実開示資料を見るとRILの株式の51%弱はムケシュ関係の法人が所有している。アニルのほうはグループが企業群になっていて一本にまとまっているわけではないが、上場企業の場合40%強の株式をアニル関係の法人が所有していることが開示資料を通じてわかる。

資本主義初期ではこのような強烈な個性を持った人物が合法・非合法の手段を用いて自分の企業を大きくし、そして巨万の富を築いてゆくものだが、ディルバイやその息子たちの姿を見ているとその感を強くする。そういう人たちが活躍できるということは、インドがまさに経済の勃興期にあることを示している。

しかし、彼らの活躍は一面国に彼らの行動を制御する力が不足しているということでもある。

ムケシュもアニルもフォーブスの億万長者リストに名を連ねる。ちなみにムケシュがRILから得た収入は開示資料で見ると2007年度は4.4億ルピー(約11億円)。「The White Tiger(邦題『グローバリズム出づる処の殺人者より』)とインドの治安」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2009/05/13/
で用いた比率を使うと日本の物価感覚では36億円相当だ。余り派手にマスコミに登場することのないムケシュだが、東京並みに土地の高いムンバイの高級住宅地4532平米に27階建ての私邸(自宅兼事務所ではない)を建設したので、さすがにこれは世界中で有名になった。
http://www.forbes.com/2008/04/30/home-india-billion-forbeslife-cx_mw_0430realestate.html

インドには他方「Slumdog Millionaire (スラムドッグ$ミリオネア)」
http://mumbaikar.asablo.jp/blog/2009/02/28/
で書いたように塗炭の苦しみにあえぐ8億からの大衆が存在する。

ムケシュやアニルがそれぞれの企業グループの利益のみを考え、お互いの立場を主張しインドの成長の過程を振り回すのでは、これら無告の民がたまならない。

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